顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

「セオ……」
「ちょっと特殊な家だとは思う。でも、君ならやっていけるだろうし。俺も、君やラピスが君たちらしくいられるように、王家のあり方だって変えてみせる」

 先ほどの宣言が、その証だった。
 古い慣習を破り、『星の子』を公の前に出した。セオは本気で、王家の在り方そのものを変えてでも、カティアたちを受け入れようとしてくれている。

 ぐっと唇を引き結んだ。
 だって、カティアの気持ちなんてとっくに決まっている。
 だから後は、勇気を出して伝えるだけだ。

「私も、あなたと家族になりたい」

 噛みしめるように呟く。

「あなたのいない未来なんて、考えられない」

 セオの表情が緩んだ。
 けれど、すぐにその瞳にほんの少しだけ、欲張りな光が灯る。

「家族、か。――それは、親子の繋がりだけでいいのか?」
「え?」
「俺のことは、夫として見てくれないのか?」

 カティアの顔が一瞬で赤くなった。
 だって、カティアの気持ちなど、さっきのキスで伝わっていたと思っていた。なのに、この人は言葉も欲しいらしい。

「――なんて。こんな聞き方は卑怯だな」

 そう言って、セオはすっと片膝をついた。

「カティア――いや」

 セオが、カティアの手をそっと取る。
 誰もが見守る中、セオの声だけがよく通った。

「エルカティア・イヴ・リーヴス侯爵令嬢」

 心臓が大きく跳ねた。
 勘当された身だ。もうその名前を呼ばれる資格などないと思っていた。
 周囲もざわめいている。随分前のことだだが、カティアの悪評を知る者もいるだろう。

 でも、セオは悟っているだろうから。リーヴス侯爵の本心を。
 あの不器用な父は、土壇場になっても娘のことを考え、護ろうと動いてくれていた。
 おそらく、リーヴス侯爵も処罰は免れない。どういう事情があったにせよ、カティア、そして『星の子』までも誘拐しようとした事実は変わらないからだ。
 でも、そんなカティアの大事なものも全部、抱え込もうとしてくれているのだ。この人は。

「私、セルジュリウス・オルト・イヴォン・シュタルドは――四年前のあの日から、君に焦がれてやまなかった」

 セオの声はわずかに震えていた。

「一日たりとも君を忘れたことはなく、ずっと、君だけを求めてきた」

 ぎゅう、と手を握る力が強くなる。

「私は謝っても謝りきれない過ちを犯した。――でも、私の隣は君しか考えられない」

 瑠璃色の瞳がカティアだけを映している。
 そうして、真っ直ぐ告げた。

「愛しているんだ。だから、どうか私と結婚してはくれないだろうか」

 視界がにじんだ。胸が熱くて、苦しくて、でも幸福に溢れている。
 答えなんてもう、ずっと前から決まっている。

「――はい」

 声が震えた。

「はい。セルジュリウス陛下」
「っ――!」
「私も、あなたが好きです。だから、どうか――」
「カティア!」

 最後まで言い切る前に、がばりと抱き上げられた。
 視界が一気に高くなる。まるで空に掲げるように、セオの両腕に軽々と持ち上げられたのだ。

「ちょっ、陛下!?」
「――すまない」

 見上げると、セオが泣きそうな顔で笑っていた。

「セルジュリウスと呼ばれるのが新鮮だったから、ちょっとジンときた。でも、セオがいいな。セオと呼んでくれ」
「セオ! ここ、公衆の面前よ!?」
「ああ! 皆! 祝福してくれ!! 俺の愛する人が、気持ちに応えてくれた!!」
「俺になってるし……!」

 完全に素が出ている。国王としての体裁など、どこかへ吹き飛んでしまったらしい。

「はっ――しまった」

 しかし、ここぞとばかりにセオが我に返った顔をした。

「喜びのあまり、カティアの言葉を最後まで聞けなかった」
「え」

 迫真の顔をしてなにを言うかと思えば、まさかのそれだ。

「もったいないことをした……! カティア、もう一回だ! もう一回言ってくれ!!」
「ちょっ!? セオ!? もう下ろしてよ! 恥ずかしいわ!!」
「あはははは!」
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