顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして
(7)決着
セオが楽しげに声をかけている。
しかし、その声も瞳もちっとも笑っていなかった。
「陛下、これは一体なんだというのです? 私は、リーヴス侯爵の不穏な動きを察知し、先回りして奴を捕らえたに過ぎ――」
「黙れ」
セオが剣を振った。その剣先から青白い光の粒子が飛び出したかと思えば、グレンソン公爵の頬を掠め、背後の地面が深く抉れる。
「私がなにも知らないとでも思ったか」
それを見た瞬間、グレンソン公爵が顔色を変えた。
(すごい……)
セオはなんでもないという顔をしているけれど凄まじい威力だ。
ひとりでお忍びに出るために、相当な鍛錬を積んできたのだろう。王城の外では護衛もつけず、なにがあっても、自分の身は自分で護れるくらいに。
「よくも貴様、我が愛する人を攫ったな」
「ち、違います! それはリーヴス侯爵が――」
狼狽えるグレンソン公爵を横目に、レスターが近くの騎士に枷を託し、すっとセオに歩み寄る。かと思えば、なにかを耳打ちした。
厳しい顔のまま聞いていたセオだったが、ふっと目元を和らげ、カティアに振り返る。
「カティア、君の父は無事だそうだ」
「え……!」
「目にいくらか損傷はあるらしいが、失明は免れたそうだ。加護の力で護られていると――もしかして、君が治療を? 」
「そう、ですか……!」
安堵で力が抜けそうになるのをこらえ、カティアは深く息を吐く。
セオも大きく頷いてから、再びグレンソン公爵へ厳しい目を向けた。
「グレンソン公爵。あなたの屋敷の地下から、使用を禁じられた転移の魔法陣が見つかった」
「ぐ……!」
「周囲には、魔力切れで事切れた者が四名。――貴様、あの者たちの命を触媒にして転移の術を展開したな」
「それはリーヴス侯爵が、どうしてもご令嬢を助けたいと言うから! 私は、騙されて! 協力する形になっただけ!」
「――助けたい?」
「そもそも!」
グレンソン公爵は、ここぞとばかりに声を張り上げた。
髪を振り乱しながらも、周囲に集まった野次馬たちに向け、堂々と主張を始める。
「今の王家が支配するこの国の現状を、誰も憂えぬのか!? 『星の子』は本来、外に出ることも許されない! 二十歳まで幽閉し、人前にも出さず、一方で成人してしまえば『星』だよりの国営! これでは道具と変わらないではないか!?」
民に向けて語りかけるその姿は、さすがは長年宮廷を渡り歩いてきた政治家だった。声に力があり、堂に入っている。
「そこのリーヴス侯爵令嬢もそうだ! かつて婚約を破棄なさったのは陛下ご自身ではないか! リーヴス侯爵が、王家の都合に振り回され勘当せざるを得なかった我が子をどれほど哀れんでいたか、おわかりか!?」
グレンソン公爵の主張は巧みだった。全てをリーヴス侯爵の意志として語り、自分はただそれに協力した善意の貴族であると印象づけようとしている。
「だから『星の子』とともに、同じく王家に囚われるご令嬢を助けたいと! リーヴス侯爵は訴えたのだ! 私はその願いを聞き入れたに過ぎない!」