顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

 誰も彼もが笑顔でカティアたちを祝福してくれている。
 カティアは目を丸くしたまま、周囲を見回していた。
 だって、まさかこんな光景を目にする日が来るだなんて。

 カティアにとって、かつて王都は冷たい場所だと感じていた。でも、なんだかカティア自身も受け入れられた心地がして、心が温かく解けていく。
 滲みそうになる涙を堪え、ふと隣に目を向けた。

「本当に、変わらず気のいい奴らだ」
「そうね」

 自然と腰に回された手に身を預け、セオと肩を寄せ合う。
 くすくすと笑い合っているうちに、自然と頬に手が添えられた。

 顔を上げれば、すぐそこに瑠璃色の瞳がある。その奥に宿る熱に心臓が跳ねた。
 と思えば、驚く間もなく唇に柔らかな温もりが触れる。

 世界が静まりかえった。
 そしてその直後、カティアが目を大きく見開いた瞬間、この日一番の歓声が上がった。
 瞬きひとつできず固まっているカティアに、セオがいたずらっぽく笑いかける。

「民の期待に応えたつもりなのだが」

 よく回る口だ。カティアはくすりと微笑み、問いかけるように彼の瞳を覗き込む。

「……本当にそれだけ?」
「いや。どうしても今、君にキスがしたかった」

 堂々としているようで、耳まで真っ赤だ。
 本当にこの人は、いつだって自由で真っ直ぐだ。そういうところが、たまらなく愛しい。

「とうさま、かあさま、なかよし!」

 弾けるような声とともに、ラピスが足元に飛びついてくる。

「だろう? ほら、お前も」

 セオが笑って、小さな身体をひょいと持ち上げた。

「わあい! かあさまも! だっこ!」
「ええ」

 おねだりされるまま彼を受け取ると、ラピスごとセオに抱き込まれる。
 三人寄り添うその光景に、街の人々も皆笑顔だ。

 酒場の常連たちがひゅうっと口笛を吹いた。フロゥもレスターの肩をバシバシと叩いて笑っては、そのレスターも珍しく口の端を上げている。

 全部が、全部幸せで。
 カティアは笑いながら、今度はもう一度と、自分からセオの唇に触れた。


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