顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

 窓の向こうに見える空が、どこまでも青い。
 その眩しい陽光を背にして、カティアは振り返った。
 純白のウエディングドレスが艶めき、ゆらりと揺れた。

 仕立てのいい絹のドレスは、まさに一級品だ。
 手触りが良く、身体の線を上品に拾いながら裾に向かってふわりと広がっていく。胸元から肩にかけてはレースが繊細な花模様を描き、透けた袖が白い二の腕を優しく覆っていた。
 ミルクティーベージュの髪は高い位置でまとめられ、ロングベールが背中を流れるように落ちている。

(まさか、こんなに早く、ここまで素敵なドレスが仕立て上がるだなんて)

 職人達が寝る間を惜しんで仕上げたドレスは、見事としか言いようがない。

 あれから四カ月。
 そう、わずか四カ月にして、カティアたちの結婚式は準備されたのだ。

 王族にしては異例の早さとも言える。
 一日でも早く結婚したいセオと、しっかり準備をしたいセオ本人が激しくせめぎ合った結果、四カ月という最速記録を叩き出した。

 いや、早い。率直に言って、早すぎる。
 けれど、冬が来る前に駆け込みたい、年は越したくないというセオの執念に、最終的にカティアが折れる形となった。

(あのときの、なりふり構わない顔ったら)

 あんな勢いで周囲に指示を出していくセオを見ていたら、頷く以外の選択肢はなかった。
 そのかいもあって、準備は万端だ。天気もよく、絶好の結婚日和である。

「かあさま、きれい!」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねているのはラピスだ。

 銀色の髪がきちんと整えられ、白い衣装に身を包んでいる。銀の細い縁取りが施された小さなジャケットも、瞳とお揃いの深い蒼のサッシュも、幼い身体によく似合っている。
 澄まし顔で背筋を伸ばして立っていると、本当に、大国の王子様に見えてくるから不思議なものだ。

 ラピスは、先日のセオの大立ち回りがよほど印象に残ったらしく、「セオみたいな立派な王様になりたい」とよく言うようになった。王子としてのマナーを身につけようと、本人なりに頑張っているところだ。

 とはいえ、身内だけになると今みたいに地が出ることも多い。彼なりに、のびのびと元気に成長していた。
 今日はリングボーイを務める予定で、朝からすこぶる張り切っている。

「ね、とうさま! かあさまきれいだね……!」

 そして、ラピスがくいくいと裾を引っ張る先にいるのはセオだ。
 カティアの姿を目にしたまま、言葉を失っている。
 ラピスに揺さぶられてようやく我に返ったようだが、それでもまだぽかんと口を開けて呆けている。

(私からすると、あなたの方がよっぽど綺麗なのだけど)

 セオは白の礼装に身を包んでいた。
 白地に金糸の刺繍が施されたコートで、深い蒼のサッシュが巻かれ、さらに金の飾緒が揺れている。肩から流れる蒼のマントは鮮やかで、白い礼服を纏った彼がパッと映えるようだった。
 艶のある銀髪もきちんと整えられ、息を呑むほどに美しい。

 カティアまでうっかり見惚れていると、セオがつかつかと歩み寄ってきた。
 ふわりと腰に手を回され、引き寄せられる。

「本当に、綺麗だ」

< 124 / 126 >

この作品をシェア

pagetop