顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして
(4)意気投合
「――私だって、家の役に立てるなら! お父様が喜ぶなら、結婚くらい受け入れるつもりなのっ!」
「そうだな。イヴほど親孝行な子はいないのに。君の父親の目はとんだ節穴だ」
――今にいたる。
女性向けにと用意された酒は、口当たりがよく、くぴくぴと飲めてしまう。そのせいか、イヴの前には空のグラスが山になっていて、イヴ自身の頬もすっかり真っ赤になっていた。
生来の酒の強さにより意識ははっきりしているが、感情の揺れ幅が大きい。
セオが思った以上に聞き上手なせいか、話すつもりのないことまでするする口に出てしまう。
(まあ、娘を顧みない父親に、政略結婚の駒にされるとか、よくある話よね)
貴族に限らず、平民でもそうだ。家同士の都合で、女は嫁がねばならない。
ならば、これくらい話しても問題ないだろう。と言っているうちに、どんどん話題が父親についてに変わっていったのだ。
誰にも言ったことのなかった父親への愚痴。それを吐き出して初めて、自分自身の気持ちを強く自覚する。
結局カティアは、父親に認められたかった。ちゃんと努力をしてきた事実を見て、一度でいいから褒めてほしかった。
「君はよく頑張っている、と思う」
ふと。大きい手のひらが頭に落ちてきて、瞬いた。
顔を上げると、セオの瑠璃色の瞳と目が合う。きらきらと綺麗な輝きに目を奪われる。それから、頭を撫でる優しい手つきにも。
セオはきっと考える前に手が動いたのだろう。心臓が高鳴っているのは、酒が回っているからではない。
(初めてね……)
誰かに頭を撫でられるのは。
父親に認めてほしくて、精一杯の努力を続けていた幼い頃の自分が救われたような気がした。
もちろん、今の自分も。
心は罅だらけで、どれだけ潤しても水がこぼれ落ちていってしまう。だけど、この優しい手が、心の水を受け止めてくれたような気がした。
ぐずぐずになりそうなところをぐっと堪える。そしてカティアは、目を細めた。
「っ……」
なぜかセオの方が動揺したように、唇を引き結んでいる。
彼の頬も赤いのは、アルコールのせいに違いない。先ほどから、酒精の強い酒を何杯も煽っていたのだ。
さすがにもう酒を注ぐ手は止まっているが、瑠璃色の瞳が熱っぽくカティアを見つめている気がする。
(ふふ、自意識過剰ね)
たまたま、同じ境遇の男女が、同じ日、同じ時間にヤケ酒をしにきただけ。
胸が高鳴るのも、きっとアルコールのせいに違いない。
――いや、カティアとて鈍くはない。この昂揚というか、好奇心というか、彼ともっと話したい。彼のことを知りたい。一緒に過ごしたい。そんな欲が、どんな感情に起因しているのかは理解しているつもりだ。
だからといって、その感情を深掘りしても幸せになれない。弁えている。
(でも、もう少し。もう少しだけお話したい……)
不思議なものだ。最初は身構えていたはずなのに、セオの話しやすさにすっかり心を許している。
波長が合うとでも言えばいいのか。
セオの態度は砕けているけれど、どこか落ち着きがあると言うか、所作が綺麗だ。貴族でもなければ平民っぽくもない。
「おいおいおい! 珍しいじゃねえか、セオが女の子に夢中になるなんてよ」