顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

(7)追放、そして……


      ◇◇◇

「この親不孝者め!」

 バシッ!と鈍い衝撃が頬に走り、カティアは床に倒れ込む。

(……これは、数日は痕が残るわね)

 覚悟はしていた。カティアのやらかしが父親にばれたが最後、叱責どころの騒ぎではすまないだろうと。

 どういう経緯か、セオとの一件が世間に知れ渡った。
 名前も見た目も変えていたが、それでも、イヴという娘がカティアであると知っている者がいたのだ。
 そしてカティアは、その誰かにまんまとネタを提供してしまった。
 カティアが全て悪い。いいわけのしようもない。

「申し訳ございません」
「謝罪をするということは――事実なのか」

 すぐに返事はできなかった。
 だって、父親であるリーヴス侯爵の声があきらかに落胆しているように聞こえたからだ。
 こうして、事実確認されるのも珍しい。いつもなら、カティアの言葉など一切聞くつもりなく、一方的に決めつけてくるから。

「…………はい」

 嘘はつけない。
 カティアは床に頭を擦りつけながら、謝罪する。

「申し訳ございません」

 でも、誤魔化したくはなかった。
 セオと過ごした一夜を、なかったことにしたくない。
 結局セオが、どこの誰かすらわからなかったけれど、あの夜、彼に恋した事実を否定したくはなかった。

「この……このっ……!」

 肯定するとは思っていなかったのだろう。リーヴス侯爵は何度も言葉に詰まる。

「この、馬鹿娘め! やがて王妃になる身でありながら、平民と遊びほうけている痴女だったとは! 『夢喰』を授かった時点で、お前を放り出しておくべきだった!」

 いつもなら、それは違うと言い返していたかもしれない。
 けれども、この日のカティアは一切反論しなかった。地面に伏せたまま、父親の罵倒を全部受け入れる。

「議会でなんと言われたか、わかるか? 放蕩の限りを尽くす娘を王太子妃に推すとは正気かと! お前ひとりの不始末で、この家の名誉が地に堕ちたのだ!」
「申し訳ございません」
「はっ! 今さらなにを言うか。王太子との婚約は白紙だ! お前のような面汚しなど、置いておくわけにはいかぬ! 今すぐこの家を出ていけ!!」

 こうして、カティアはリーヴス侯爵家を勘当された。
 手切れ金を握らされ、鞄ひとつで家を放り出されたのだ。
 正門から外に出ることは許されなかった。
 裏門から突き飛ばされ、さらに荷造りした鞄も地面に投げ出される。
 瞬間、ガシャン!と門が閉ざされ、終わり。カティアはリーヴスの姓を名乗ることも許されず、平民へと落とされた。
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