顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

 手切れ金だと渡されたお金を使って、カティアはいくつかの街を渡り歩いた。
 どうせ住むなら、気に入った街で暮らしたい。
 王都を出るのは初めてで、色々見聞しながら。



 そうして一カ月半後、とうとうカティアはお気に入りの街を見つける。

 シュタルド王国の南西に位置する、大きな港町だ。商業都市レイネの拓けた街の雰囲気、人々の明るい気風がとびきり気に入ったカティアは、その街で住む場所を探すことにする。

(でも、最近少し具合が悪いのよね。あまり無理はしたくない)

 侯爵家から貰った手切れ金は、まだ少し余裕がある。これからの暮らしに関わる大事な家になるし、焦らず、じっくりと探そうと心に決めるも――やはり、おかしい。

(この街、食事だけは少し合わないのかしら? 最近、食欲が……)

 ううん、と考え、はたと気がつく。

(……そういえば、今月、まだ月のものが来ていないわね)

 色々なことがありすぎて、身体にも心にも負担がかかっているのだろう。
 前向きに過ごしているつもりだが、知らぬうちに疲れが溜まっているのかもしれない。
 だとしても、この感覚はなんだろう。

(食欲はなくて、日中もずっと眠いのよね。一度しっかり休んで、体調を整えなきゃ)

 しかし、商業都市レイネで過ごして数日、カティアは体調不良の正体を知ることになる。
 そもそもそれは、疲労やストレスによるものなどではなかった。




「え? 妊娠……?」

 ひとまず、と訪れた診療所で、医師から思いもよらない事実を告げられる。
 古びた木の椅子に腰かけたまま、カティアは言葉を失った。

 まさかの、つわり。
 セオと過ごしたあの一夜で、カティアは彼の子を身籠もっていたのである。



< 22 / 126 >

この作品をシェア

pagetop