顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして
手切れ金だと渡されたお金を使って、カティアはいくつかの街を渡り歩いた。
どうせ住むなら、気に入った街で暮らしたい。
王都を出るのは初めてで、色々見聞しながら。
そうして一カ月半後、とうとうカティアはお気に入りの街を見つける。
シュタルド王国の南西に位置する、大きな港町だ。商業都市レイネの拓けた街の雰囲気、人々の明るい気風がとびきり気に入ったカティアは、その街で住む場所を探すことにする。
(でも、最近少し具合が悪いのよね。あまり無理はしたくない)
侯爵家から貰った手切れ金は、まだ少し余裕がある。これからの暮らしに関わる大事な家になるし、焦らず、じっくりと探そうと心に決めるも――やはり、おかしい。
(この街、食事だけは少し合わないのかしら? 最近、食欲が……)
ううん、と考え、はたと気がつく。
(……そういえば、今月、まだ月のものが来ていないわね)
色々なことがありすぎて、身体にも心にも負担がかかっているのだろう。
前向きに過ごしているつもりだが、知らぬうちに疲れが溜まっているのかもしれない。
だとしても、この感覚はなんだろう。
(食欲はなくて、日中もずっと眠いのよね。一度しっかり休んで、体調を整えなきゃ)
しかし、商業都市レイネで過ごして数日、カティアは体調不良の正体を知ることになる。
そもそもそれは、疲労やストレスによるものなどではなかった。
「え? 妊娠……?」
ひとまず、と訪れた診療所で、医師から思いもよらない事実を告げられる。
古びた木の椅子に腰かけたまま、カティアは言葉を失った。
まさかの、つわり。
セオと過ごしたあの一夜で、カティアは彼の子を身籠もっていたのである。