顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして
第1章 素性も知らないあなたと

(1)居場所のない卒業式

 誰もが羨む、華々しい人生。
 カティアが歩んでいる道は、第三者から見ればとても眩しく、輝かしいものであるのは理解している。
 ただ、カティアの心はなにかに囚われたかのように、深く、重く沈んでいた。

 ここは貴族の子女が通う王立の高等学校。
 その卒業式という厳かな場で、侯爵令嬢であるカティアもまた、背筋を伸ばして名が呼ばれるのを待っていた。

 ミルクティーベージュの艶やかな髪を後ろに流し、淡いアクアブルーの瞳は真っ直ぐ壇上を見つめている。整った顔立ちではあるが、生真面目すぎる性格のせいか、あるいは前へ出ることを好まないためか、どこか地味で、印象に残りにくい。

 式典も大詰め。優秀者の名前が読み上げられ、そのたびに称賛の声が上がる。
 しかし、三席、次席と名前が読み上げられた瞬間、周囲の華やいだ声が動揺に変わる。
 皆に首席だと目されていた人物が、先に名を呼ばれてしまったのだ。
 騒然とする中、カティアはその時を待つ。

「主席、一組、エルカティア・イヴ・リーヴス」
「――はい」

 凜とした返事と共にカティアが立ち上がった瞬間、周囲のざわめきは大きくなった。

「え!? エルカティア!? どうしてあの子が……!?」

 カティアはにこりともせず、粛々と壇上へ向かって歩いていく。
 彼女が歩みを進めるたびに、動揺の声が広がっていくのももちろん聞こえていた。

「確かに成績はずっとよかったけど、彼女には相応しくないわ」
「もしかして、あの噂、本当じゃない?」
「噂?」

 どこか棘のある声色が、講堂全体に広がっていく。それは生徒だけではなく、講堂の後ろで見守る保護者席の間でも同じようだ。

「なんでも、例の女の代わりに王太子妃に選ばれてたって」
「え!? 嘘!」
「ほら。例の事件でネディル公爵家が取り潰しになったでしょう? 婚約者だった公爵令嬢の代わりに、リーヴス侯爵が強引にあの子をねじ込んだって聞いたわ」
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