顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

 おおよそは間違っていない。
 カティア自身、ため息をつきそうになりながらも、ぐっと堪えた。

 自分が主席だったと連絡を受けたときから、嫌な予感はしていた。
 もちろん、成績に関しては胸を張って事実だと言い切れる。それだけの研鑽も積んできたし、実際試験や論文でも実力を発揮できていたと思う。
 ただ、清廉であれという強い父の言いつけを守り、いわゆる『優等生』として振る舞ってきた結果だろうか。あるいは、そもそも周囲の令嬢たちと話が合わなかったからだろうか。

 地味なカティアがどれだけ優秀な成績をとろうとも、誰も気にも留めなかったのである。
 言ってしまえば「あの子、いつも優秀者のところに名前があるよね」くらいの存在感だった。
 加えてそこに突然、王太子の婚約者交代劇が重なり、カティアが黒幕ではないかという根も葉もない噂が広がったのだ。

 つまり、前婚約者を罠に嵌め、その後釜に自分が成り代わったと。
 いくつもの悪い憶測が、カティアの成績を『買収』ではないかというあらぬ推測を呼んでしまったのである。

「あの子、あんな地味ななりして、夜は遊び歩いてるって聞いたわよ」

 ほら、来た、とカティアは思う。

「聞いた聞いた。こないだの夜会でもさ、珍しく出席したと思ったら、平民の男を取り巻きにしててさ」
「見た見た。あの成金たちでしょ? あんな下賎な男くらいしか付き合ってもらえないんじゃないの?」
「それも、得意の買収じゃない? ほら、成績と同じで」

 キャハハ!と心ない嘲笑が飛ぶ。
 カティアは胸が痛むのを、拳を握り込んでどうにか耐えた。

 色々言い返したいことはある。成績は、努力の末の当然の結果だし、彼女らの話に登場した平民の男というのも思い当たりはある。
 しかし、平民だというだけで下賎だと決めつける感性は、淑女にはあるまじきものだと思う。

 そもそも色眼鏡もいいところな主張だ。彼らにも、そしてカティア自身にも悪いところなどなにひとつない。
 カティアだけでなく、真っ直ぐ誠実に生きている人々の努力も嘲笑うような声に、言い返せない自分が恥ずかしい。

(主席なんて、取らなければよかった)

 そうしたら、こんな針の莚に座らされる気分にはならなかっただろう。
 でも、カティアはどうしても主席を取りたかったのだ。認めて欲しい人がいるから。
 だから、前を向け。
 堂々と胸を張って、壇上へ――。

 ――なんて。
 どれだけ頑張ろうとも、全部無駄になってしまったけれど。
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