顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

 ノーラがあちこちをひっくり返し始めたのを見て、ラピスが彼女に歩み寄った。

「ノーラちゃん、なにさがしてるの?」
「んー、紙なんだけどさ。お買い物リストを――」

 言い終わらないうちに、ラピスはノーラ本人の手を握って、目を閉じる。
 かと思えばすぐに、カウンター裏に置いてある棚の引き出しを全部開けた。そうして、奥に落ちてしまっていた一枚の紙を拾い上げる。

「んっしょ。――これ?」
「それ! 奥に落ちちゃってたか。さすがラピス、頼りになる男だよ」
「えへん!」

 盛大に褒められ、ラピスはビシッと胸を張った。得意げな姿が可愛くて、ノーラとふたり、つい釣られて笑ってしまう。

「いやー、助かった。ほんっと、あんたすごいね。そこまで来たらもう才能だよ」

 ノーラがラピスの頭をがしがし撫でると、ラピスは気恥ずかしげに「えへへ」と笑う。
 実際、ラピスには不思議な力がある。
 なくしたものを見つけるのがとにかく上手い。本人いわく、「わかる」のだそうだ。なくしたものがどこにあるか、ぼんやりと感じるらしい。

(まあ、魔力でしょうね……)

 魔力は、生きとし生けるもの全てが少なからず持っている。けれど、魔法と呼ばれるほどの力を発揮できる人間は多くない。

 魔力は血に宿る。それだけの才を持つ者のほとんどは特権階級――すなわち貴族の出だった。
 カティアも少なくない魔力を持っているからこそ、髪色を変えるような芸当ができる。
 ラピスの父親にあたるセオもそれなりの魔力の持ち主だったと推測できる。だから遅かれ早かれ、ラピスに魔法の才が現れるだろうとは思っていた。

(それにしても、表に出てくるのが早すぎるわ)

 御印と同じで、魔法の才がはっきり見えはじめるのも、おおよそ教会から洗礼を受ける七歳前後が多い。
 それよりも早く顕現するとは、相当な魔法の才を持っているのだろう。

(物に残った微細な魔力を感知するだなんて、相当よ)

 末恐ろしいが、市井で生きていくならば、その才能は隠した方がいい。
 でも、ラピスはまだ三歳だ。今は「不思議な子だね」で済んでいるが、そのうち無意識にとんでもない魔法を使ってしまいそうで怖い。
 どう魔力との付き合い方を伝えていくかが、今のカティアの課題だった。
< 32 / 126 >

この作品をシェア

pagetop