顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

「なあ、フロゥ。お前の息子、今いくつだ?」

 ふと、フロゥの家族について思い出す。
 彼は成人して早々に結婚し、すでに二児の父なのだ。いつも軽薄な態度をしているが、家では子供たちの英雄であることをセオは知っている。

「え? ああ、下は十カ月、上は四歳になりましたよ。上はすっかり口達者で困ってます」
「四歳か。――俺の子も、同じくらいだろうな」

 場の空気がしんと静まった。
 フロゥは目を伏せ、レスターですら眼鏡を直す仕草で表情を隠す。

『星の子』が生まれたという啓示を受けたのは、三年と少し前。冬が終わったと言ってもまだまだ肌寒い日が続く中、ふと、春の訪れを感じさせる麗らかな日のことだった。

 あの感覚が正しければ、もう三歳になっているはず。
 どんな子だろう。なにが好きで、毎日なにをして遊んでいるのか。『星』を宿しているなら男の子である可能性が濃厚だが、ヤンチャをしてイヴを困らせていないだろうか。
 イヴに似ているのか、はたまた自分に――と、思考の海に飛び込むたびに、後からその水の冷たさに凍える。

「……イヴは、ひとりで産んだのか」

 声が震えた。

「俺がなにも知らないうちに、たったひとりで。あんな、箱入りで育った子が」

 日焼けを知らない白い肌だった。手にも傷ひとつなかったのを覚えている。

 父親の愛情こそ知らぬようだったが、それでも、令嬢としてきちんとした教育環境に身を置いていたのだろう。
 いくら下町へお忍びを繰り返すお転婆だったといっても、苦労しないはずがない。
 子を孕んでいたのなら、その後、婚約は破棄されたのか? でも、実家らしき王都にいる気配はなく、だったらどこに、と考えはぐるぐる巡るばかり。

「陛下……」
「わかっている。感傷に浸っている場合じゃないことくらい」

 拳を握りしめ、唇を引き結ぶ。弱音を吐いている暇などない。

「大々的に探せないのが、もどかしいところですね」
「ああ」

 どこかに『星の子』が誕生した事実は、一部の貴族にしか知らされていない。
 大々的に捜索すれば、必ず他国に情報が漏れるからだ。『星の子』が誘拐された過去を考えれば、慎重にならざるを得ない。
 水面下で、静かに探し続けるしかないのだ。

 ――しかしある日、思わぬところからイヴ発見の報告が入ることになる。
< 38 / 126 >

この作品をシェア

pagetop