顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして
(4)アビゲイルとロニー ※セオ視点
「イヴが見つかっただと!?」
レスターからの報告を受けたセオは、がたりとその場に立ち上がった。
執務室には彼とふたりだけだ。だから取り繕う必要もない。
「一体どういうことだ! いつ、どこで――」
「陛下、落ち着いてください」
激情のままに詰め寄るセオを、レスターが制する。
「見つけてくださったのはグレンソン公爵です。毒殺事件により取り潰されたネディル公爵家に代わり、今や最も力を持った貴族と言ってよいでしょう。我々とて、慎重に対応しなければ」
「わかっている。わかっているが――」
これまで、あらゆる手を尽くして見つからなかった相手を、グレンソン公爵が連れてきたという。しかも平民だった女性をわざわざ養子縁組した上で、ときた。
『星の子』の存在を知る数少ない人物が、こうして見つけてくれたのは喜ぶべきなのだろう。
しかし、あまりに用意周到すぎる。レスターの言う通り、警戒すべきだ。
(頭ではわかっている。それでも、イヴに会えるなら――)
逸る気持ちを押さえきれず、執務室を飛び出した。
応接室に赴くと、グレンソン公爵が優雅に一礼して出迎えてくれた。
ルーカス・コル・グレンソン。五十を過ぎてなお、背筋の伸びた立ち姿。アッシュグレーの髪を後ろになでつけ、濃い赤の瞳の眼光が鋭い。長身で、貫禄のある佇まいに、さすがにセオも表情を強張らせる。
(グレンソン公爵。それに――)
出迎えてくれた面々を見て、セオは眉根を寄せる。
その場にいたのはグレンソン公爵本人だけではなかった。なぜか他の貴族たちが同席しており、さらに――。
「陛下、お忙しいところありがとうございます。こちらが――」
公爵の横に立っている女性に視線を向けた。
ああそうだ。この部屋に入った瞬間から気がついていた。
赤茶色の髪、エメラルドの瞳。
セオの心臓が軋み、拳を握りしめる。
(同じだ)
記憶の中の色彩と、一致する。身長も、体格も同じ。控えめに目を伏せ、両手を前で組んでいるその佇まいが、記憶の中のイヴの姿に重なった。
でも――。
(…………違う?)