顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして
その先の言葉が耳に入らなかった。同席していた数名の貴族たちがにわかにざわめき、口々に声を上げる。
「陛下と瓜二つの色彩ではありませんか……!」
「『星の子』だ。間違いない!」
ああ、そうか。
やられた!と理解する。
グレンソン公爵は、『星の子』が見つかったという事実を広めるため、わざわざ立ち会いを呼んでいたのか。
「そうです。『星の子』である可能性が高く、早々に保護を致しました」
「どうして発見してすぐに報告をしなかった」
「申し訳ございません。そうするべきなのは重々承知しておりますが――」
グレンソン公爵が表情を強張らせる。そうしてセオの側に寄り、耳打ちした。
「すでにこの子供が、他国に知られていた可能性がございます。狙われていたため、早々に保護し、確かな身分を与えることに決めました」
「……それが、あの娘との養子縁組か」
届出があったのは、半月ほど前だったはず。
必然的に、このロニーという子供もグレンソン公爵の孫となる。この国への忠義ゆえ、養子に取ることも厭わなかった、というのがグレンソン公爵の主張らしい。
グレンソン公爵は大きく頷き、アビゲイルたちの側に戻り、報告を続けた。
「それに、アビゲイルはロニーとともに、実父にひどい虐待をされておりました。ロニーに危害が及んでいたため、保護、治療を施しました」
「それは……大変だったな」
「もちろん、然るべき家に戻られる場合は、養子縁組は解消して送り出すと約束しましょう」
つまり、王家に戻すと言っているわけか。
幼子に目を向けると、ロニーは小さく震えた。アビゲイルによく懐いているのか、彼女のスカートの裾にしがみつき、目を伏せる。
この場に緊張しているのか、はたまた大人自体が怖いのか。
(この子が、俺の息子……?)
その可能性があるという事実に、正直、困惑が勝った。
セオは真っ直ぐロニーのもとへ歩み寄り、しゃがみ込む。視線を合わせると、瑠璃色の瞳が大きく揺れた。
「怖がらなくていい。名前は、ロニーか?」
こくりと頷くロニーが、純粋な目を向けてくる。
「へいか、が、ぼくの、おとうさん?」
幼子の質問に、すぐに応えてやりたい気持ちにはなるが、それはできなかった。
はいともいいえとも言えず、セオは困ったように微笑む。
(御印は――いや、まだわからないか)
この子が『星の子』であれば、確実に瞳に御印が宿るはず。しかし、あれは子にある程度魔力が宿らなければ見えるものでもない。
早くて五歳、遅いと七歳までは判別がつかない。
(俺に発現したのは、四歳のころだったが)
魔法の才は両親の魔力に左右される。王家である父と、他国の王家出身で強い魔力を持つ母の間に生まれたセオの発現が早かったのは、当然だろう。
一方で、平民だというアビゲイルの血が混じっていたとしたら、そこまで早くない可能性が高い。
「ロニー、君はいくつだ?」
「え、と。さんさい、です」
「そうか。きちんと言えて、偉いな」
オドオドしながら答えるロニーに優しく微笑みかけてから、立ち上がる。その時にはもう、セオの表情は厳しいものに変わっていた。
なぜだろう。アビゲイルにも、ロニーにも、全然心を動かされない。だからといって突っぱねられるものではないと、わかっているけれど。
レスターがセオの側に寄り、小さく耳打ちする。
「現時点では真偽の判断はつきません。ですが、万が一にでも本物であるならば――」
「ああ、わかっている」
放置できようはずがない。『星の子』の可能性が少しでもあるならば、この子供の安全は保障されなければならない。だが――。