顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

「俺としたことが、ラピスに先を越されたな」
「セオ」

 肩を竦めながらやってきたのは、セオだった。
 目を伏せ、なんとも苦しそうに頭を下げる。

「俺の連れが失礼した。すまなかった、カティア」
「そんな……!」

 カティアはふるふると首を横に振る。
 連れ、という言葉にいまだ胸が痛む自分に辟易する。
 アビゲイルは婚約者と言っていた。ただ、彼女の言葉の端々を拾っても、彼女が何者なのか判断しかねるが、もしかして本当に例の商人の娘なのだろうか。

 はっきり言えるのは、恐らく今の彼女は貴族の位を持っていて、カティアなど簡単に処断できる立場にあるということだろう。迂闊な行動はできない。

「地元から勝手にくっついてきてな。――来るなとは言ったんだが」
「そう、なのですね」
「ああ。アレは気にしなくていいから。本当に。もう、ここには絶対に来させないようにする」
「大丈夫です。ビックリしたけど、気にしてません」

 婚約者というからには、普段から色々苦労もあるのかもしれない。なんとなく察してしまい、カティアはへらりと笑う。

「――ならよかったが。それでは俺の気がすまない。なにか詫びをさせてくれ」

 けれどセオは引く気がないのか、ぐいぐいと迫ってきていた。

「話は聞かせてもらったよ!」

 カランカランとドアベルが鳴るとともに、外からノーラが戻ってきた。
 なんともいい笑顔でそこに立っている。

「お詫びっていうならさ、セオさん、この子を連れ出してあげてよ」
「ノーラ!?」
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