顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

 カティアが慌てて声を上げるが、ノーラは構わず続けた。

「聞いてよ。この子ったら、毎日ラピスのことで一生懸命なのはいいんだけど、自分のことは全っ然なの。――ほら、ひとりで息抜きなんかしたことないでしょ、ここ何年も」
「そんなことは――」
「ある。断言する」

 ノーラの指がびしりとカティアを指した。勢いに呑まれ、カティアがうっと口を閉ざす。
 一方のセオといえば、最初こそ少し驚いた顔をしていたが、みるみるうちに表情が変わっていく。

「それは、放っておけないな」

 こちらもいい笑顔だ。にい、と口の端を上げ、瞳を輝かせた。
 なぜだろう。ノーラとセオ、妙に気が合っている。ふたりして包囲網を敷かれている気がして、カティアはたじろいだ。

「ではカティア。明日、祭りを案内してもらえないだろうか。俺ひとりでは勝手がわからなくて困っていたんだ」

 困っていた、というわりに声が弾んでいる。隠す気がないのか、隠せないのか。

「ほらほら、セオさんもこう言ってるし!」

 ノーラも楽しげにカティアに近づいてくる。

「ねえ、あんた。ここに来てから男っ気のひとつもなかったでしょ。いい機会じゃない?」
「なっ……!?」
「いや。以前の旦那さんが忘れられないのはわかるよ? でもさ、ラピスには父親も必要だと思うし」

 ノーラはセオに聞こえないよう、カティアの耳元に口を寄せた。

「あんたさ、好きなんでしょ?」
「ちょ、ノーラ!? なに言って」
「ほら。図星」

 たちまち頬が火照り、カティアが飛びのく。

(ノーラ!? ちょ、それ、こんな時に言う!?)

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