顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして
「当然でしょう」
顔を上げると、ランプの明かりの向こうでくいっと眼鏡を上げるレスターと目が合った。
こんな時でも、彼は本当に容赦がない。眼鏡の奥の冷ややかな双眸が、セオを冷静かつ的確に射抜いてくる。
「聡いご令嬢だとお見受けします。あなたが身分を隠して近づいているのも、とうに悟っていらっしゃったのでは?」
「…………」
そうなのかもしれない。ずっと彼女が、セオを警戒していたのはわかった。
四年間も姿を見せず、探しにも来なかったセオを警戒するのは当然だ。
実際は必死で探していたし、彼女も彼女で姿を変えていたから、見つけ出すのは困難だった。それでも、彼女からしたら、知らない土地で子を産み育てる原因となった男だ。
セオがその立場だったとしても、様子を見るという選択肢を選ぶだろう。
「それを、正体を明かすこともなく告白しようなどと。虫のいい話です」
図星だった。
ぐうの音も出ない。セオは胸を押さえるようにして、深く項垂れた。
「……時間をかけて、仲良くなりたいと思ったんだ」
子供がいるから。『星の子』がいるから、彼女を取りこみたいわけではない。
国王ではなく、ただひとりの男として、彼女やラピスと仲良くなりたかった。
この街で出会えたのは僥倖だ。
見つけ出すまで、四年もかかった。
真偽はわからずとも、国王権限で彼女たちを強制的に保護するのは簡単だ。
でも、彼女にはそれをしたくなかった。じっくり、セオという人間の人となりを知ってもらって、その上で、この先の未来を検討してほしかった。
セオは国王だ。その隣に座る重責を、強制的に押し付けたくなかった。
――なんて、全部、臆病なセオがこじつけた言い訳にすぎないのかもしれないけれど。
「あなたの気持ちはどうあれ、ラピスという少年が真実陛下の子であるならば、保護の必要がございます」
「……ああ」
「悲しまれずとも、そうなればカティア様は、あなたと結婚するほかなくなる。よかったですね。おめでとうございます」
「お前……!」
カティアの気持ちを踏みにじるような言葉に、セオは食いかかる。
しかしレスターは涼しげな顔で、自身の周囲に結界を張るだけだった。
そうだ。この男は誰よりも魔法に長けている。胸ぐらを掴むことすらできず、セオの身体は結界に弾かれた。
そのまま後ろによろけ、床に尻もちをつく。その痛みが。冷たさが。全部セオの心に突き刺さった。
「あの…………」
そのときだ。部屋の隅で見ているだけだったフロゥが、控えめに手を上げた。
「ちょっといいスか。オレ、今日、留守番でラピスと一緒に過ごしていたんスけど」
フロゥらしくもなく、難しい表情をしている。
「そんとき、ノーラさんに聞いたんス。実はカティア様ご本人も知らないようなんスけど、毎年、少なくない金額をノーラさんに渡してくる方がいらっしゃるようで」