顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

「いやあ、随分と立派な馬車だ」
「すごい人に見初められたんだね、カティアちゃん」
「カティアちゃんほどの器量よしだもの! 当たり前だよ!」

 皆、ぽんぽんと思った言葉を口にし、なんとも和気あいあいとした空気が広がっている。

(別に結婚するわけじゃないのに……!)

 確かにセオは「君たち親子を護らせてくれ」と言ってくれた。
 でも、それはラピスの王室病と、『星の子』であることを踏まえた上での申し出だ。
 つまり、カティアはラピスのオマケ。そこはきちんと弁えている。弁えてはいるのだが。

(でも、この場はそう思ってもらっておく方が無難……なの? セオが国王だなんて絶対に言えないし、ラピスが『星の子』だとも言えないし。そうなると結婚以外の理由で、こんなに豪勢な馬車に同乗して行くなんて説明がつかないし)

 考えすぎて、おめめがぐるぐるしてくる。なにが正解なのかちっともわからない。
 そのとき、そっと誰かが横から近付いて来た。

「おめでとう。――陛下と、お幸せにね」
「ちょ!? ノーラ!」

 耳元で囁きかけられ、思わず大きな声をあげてしまう。
 誰にも聞かれていなかっただろうか。
 カティアの声に何人かが不思議そうにこちらを見たが、ノーラはカラカラと笑うだけだ。

「わかってるわかってる。ちゃんと秘密にしておくわよ」

 本当だろうか。
 いや、いくらなんでもセオが国王だなんて事実、口を滑らせるわけにはいかないけれど。
 さすがにそれを弁えないノーラではないはずだ。

「当然よ! っていうか、結婚(そういうの)じゃないし!」
「え? ないの?」
「ないよ!」

 必死に否定するカティアとは裏腹に、ノーラはニヤニヤと笑っている。

(ああもう! 完全に楽しんじゃってる!)

 このままではノーラのペースに流されっぱなしだと、カティアはそっぽを向いた。

「あちゃー、セオさん、これは頑張らないとっスよ」
「……わかっている」

 付き添いで来てくれたフロゥが、会話の内容を察したらしい。すすすっと近くに寄ってきて、なにやらセオとヒソヒソ話をしている。
 そうしてひとしきり笑い合い、温かな喧騒がひと段落した頃。

「さて、行こうか」

 セオがそう声をかけた。その合図に、いよいよかと胸が詰まる。
 そして、別れを感じているのはカティアだけじゃなかった。

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