顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

 カティアが返す言葉を見つけられずにいると、ふいに小さな声が割り込んだ。

「ねえ、かあさま!」

 ラピスだ。セオの膝の上で、キラキラと瞳を輝かせている。

「セオが、ぼくのとうさまになるの?」

 空気が、一瞬止まった。
 セオは少しだけ目を見開いてから、ふと柔らかく笑った。

「父になる、じゃないな。俺は最初からお前の父だ」
「え?」
「お前は俺とカティアの子だからな」

 ラピスの瑠璃色の瞳がまんまるに見開かれる。
 それはみるみる喜色に変わり、セオの膝の上で大きく飛び跳ねた。

「ほんと!? セオがぼくのとうさま!? ほんとのほんと!?」
「ああ。本当の本当だ」
「やったあー!」

 ぎゅーっとラピスがセオに抱きつく。
 よほど嬉しいのだろう。ずっとセオを見上げながら、膝の上でぴょんぴょん飛び跳ねた。

「ぼくね! ぼくね! セオがとうさまだったらいいのにって、ずーっと思ってたの!」
「そうか。――俺もだよ。君みたいな息子がいて誇らしい」

 セオが、あの大きな手でラピスの銀髪をそっと撫でる。大きな手のひらが擽ったいのか、ラピスがふふっと目を細めた。
 その幸せそうな顔を見ていると、もうなにも言えなくなりそうだ。

「というわけだ。ラピスも乗り気のようだが?」
「……子供を使うのは卑怯なのでは?」
「ははは! 使えるものは使う主義でな!」

 悪びれもしない笑みが、憎らしいほど綺麗だ。
 ラピスを片腕で抱いたまま、もう片方の手をカティアへと差し出す。

「言っておくが、俺は諦めが悪い。君が頷いてくれるまで、何度だって伝えるさ。――擦れ違うのは、もう十分だからな」
「セオ……」

 彼の名前を呼ぶと、セオは茶目っ気たっぷりにウインクして見せた。
 それがあまりに心臓に悪くて、カティアはぎゅっと唇を引き結ぶ。

「そういうわけだ。これからとことん口説くから、覚悟しておいてくれ」


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