顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

 アビゲイルの瞳が大きく揺れた。

「陛下! 違うのです! それは――キャッ!」

 彼女が弁明しようと顔を上げた瞬間、両脇の騎士たちがアビゲイルの肩を押さえつける。

「口答えは許していない」

 セオの声は冷ややかだった。先ほどまでカティアたちに向けていた温もりなど、微塵もない。

「そうだ。お前は『星の子』の母だと謀っただけではなく、カティアのことも黙っていたな?」
「っ……!」
「真っ先にカティアの正体に気付き、ラピスが『星の子』だと知りながらも隠した。自分が彼女たちに成り代わるために」
「それは」
「王妃の座を騙し取ろうとしたことの意味、わからぬとは言わせない」
「違う! だって、グレンソン公爵が――!」

 アビゲイルがそう訴えた瞬間、皆の視線がザッとグレンソン公爵へと向いた。

 そう。全ての黒幕はまさに、かのグレンソン公爵だ。
 アビゲイルを断罪し、芋づる式で公爵まで捕縛するのが理想だと、セオは言っていた。
 しかし、こんなことで動じるグレンソン公爵ではなかった。わなわなと震えながら、その強い眼光でアビゲイルを睨みつける。

「黙れ! この大罪人が!!」
「――っ!?」
「陛下。この女がなにを申そうと、お耳を汚すだけでございます」

 アビゲイルを一喝した後、胸に手を当て、セオの方へと向き直った。自分にはなにもやましいところはないとばかりに胸を張り、朗々たる声で語りはじめる。

「かれこれ三年前のことです。この女――アビゲイルが、幼い息子ロニーを連れて我が屋敷を訪ねてまいりました。曰く、かつて恋をし、一夜を共にした方が国王陛下であるかもしれない。ロニーこそ、その証だと」

 公爵はそこで苦々しげに目を伏せた。

「このグレンソン、臣下として当然の判断をいたしました。万が一にも『星の子』である可能性があるならば、放置することは許されない。陛下が長きにわたり探しておられた御子やもしれぬのです。母子ともに丁重に保護し、さらに慎重な調査を重ねた上で、その可能性が高いと判断したからこそ、陛下に紹介したまでです。それが――」

 ぎゅっと拳を握りしめる。
 眉間に皺を寄せ、絞り出すように口にした。

「それが、全てこの女の偽装工作だったとは……!」
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