顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして
公爵の声が、怒りに震えた。
そうしてカッと目を見開き、アビゲイルに向かって恫喝した。
「ええい、この痴れ者めが! 許されることならば、この手でお前を切り捨ててやりたいわ! 陛下と王家の御名を穢した罪、万死に値する!」
しかし、アビゲイルも黙って聞いてはいない。
「嘘よっ! 嘘! 全部あなたが仕組んだんじゃない!!」
「まだ戯言を……! 陛下、どうかこの者の口を塞いでくださいませ。これ以上の妄言は聞くに堪えませぬ」
アビゲイルの必死の叫びは虚しく響くだけだった。絶望と、自分を切り捨てた養父への恐怖で瞳が揺れている。
一方、あっさりアビゲイルを切り捨てたグレンソン公爵は、セオに向かって深く頭を垂れる。
「陛下。このたびは、このグレンソン、とんでもない失態を犯しました! 『星の子』をお守りせんとするあまり、判断を誤りました。あの女の虚言を見抜けなかったこと、重く受け止めております」
ぐ、と悔しげに呻いた後、彼は忠臣の顔をして一礼する。
「こうなった以上、いかなる処罰も甘んじて受ける所存です。事の次第を詳らかにするべく、我が家も聴取に応じましょう」
そう言って、深く頭を下げるグレンソンを見下ろし、セオはわずかに目を細めた。
ここまで言われてしまっては、まずは聴取の時間を取らざるを得なくなる。
一気に追い立て、投獄するつもりが、グレンソン公爵邸から証拠なりなんなりを押収するまではそれもできなくなるだろう。
(でも、グレンソン公爵は、それもすでに対策済みなのでしょうね)
本当に怖い人だ。
「――わかった。詳しくは追って聴取する。応じよ」
「はっ! 御意にございます」
「アビゲイルを連れていけ」
セオが命じると、表情が抜け落ちたままのアビゲイルが騎士たちに連行されていく。
「全く。とんだ出迎えをしてくれたな」
セオはそれすらも冷ややかな目で見てから、カティアたちの方へと振り返った。
あまりの事態にすっかり圧倒され、カティアの後ろに隠れたまま固まっているラピスを見つけ、腰を落とす。
「ラピス。驚かせたな。君とカティアに危害を加えた者を罰するのも、俺の仕事でな」
「……ぼくとかあさまを、まもってくれた?」
「ああ。これからも護るから」
「うん!」
セオの大きな手がラピスの銀髪をくしゃりと撫でると、ラピスはようやく緊張を解いてふふふと笑った。
セオが差し出した右手にぴょんっと飛びつき、ふたりしてカティアの方を見る。
「さあ、カティアも。――行こうか」
「はい」
こくりと頷き、カティアもセオの手を握る。
そうして三人、王城へと足を踏み入れたのだった。