顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして
(4)王宮での生活
そこからカティアの生活は一転した。
ラピスとふたり、王城の最奥――『星宮』と呼ばれる王族にのみ開かれた北の居城で暮らすこととなった。
王城はいくつもの棟が渡り廊下で結ばれた巨大な複合体だ。政務の中央棟、騎士団の東棟、文官たちの西棟。そのどれよりも奥まった場所に、星宮はひっそりと佇んでいる。
ここが、二十歳になるまで『星の子』の世界の全てになる。
しかし、窮屈さを覚悟していたカティアの予想は、いい意味で裏切られた。
居城だけでカティアの実家を遥かに凌ぐ広さで、手入れの行き届いた中庭は空が広く、風が抜ける。こんな場所が王城の中に隠されていたのかと、カティアは目を見張った。
ラピスは城の中を探険するのに夢中で、数日間ずっとはしゃぎっぱなしだった。
大きな変化にもするりと対応する柔軟さがあるのだろう。その柔軟さをわけてほしいとすら思う。
――だって。
ふ、とカティアの肩に重みが加わった。
温かくて、確かな重み。それと同時に、さらりと銀色の髪が頬を掠めていく。
その存在を感じるだけで、いつだってカティアの心臓は忙しなくなってしまうのだから。
「あの……陛下」
「セオだ、と言ったろう?」
「セオ。こんな場所であの……恥ずかしいわよ」
「ここは自分の家だ。自分の家で寛ぐのに、恥ずかしいもなにもあるか」
「それはそうかもしれないけど」
ちら、と、重みを感じる右肩の方へ視線を向けた。
カティアの肩に身体を預ける形でセオが寛いでいる。
それだけならまだいい――いや、よくはないが、問題はここは星宮の中庭で、少し離れたところには近衛騎士がしっかりとカティアたちを見守っていることだった。
「こればかりは慣れてくれ、としか言いようがないな。近衛がいる場では触れられない、となると、寝室でしか君に触れる権利がなくなってしまう」
「ちょ、セオ!?」
「違うか?」
悪びれなく言ってくるのが本当に心臓に悪い。
こちらを見つめてくる瑠璃色の瞳が、いたずらっぽく輝いている。
そうだ。この人は、こういう人だった。大きな肩書きをものともせず、本来の自分自身でカティアと向き合ってくれる。
ヤンチャで、からかい上手な面が見えてくるたびに、カティアの心が擽られるのだ。
(そうよ。私ってば、この人のこういうところに惹かれていたのよね。四年前も!)
いや、今のセオは四年前よりもよっぽどタチが悪い。
カティアへの想いを隠そうともせず、むしろ、こちらの心を揺さぶるのをわかっていて攻撃を仕掛けてきているのだ。
(このままだと心臓がいくつあっても足りないわ)
慣れよう。それしかない。
こほんと大げさに咳払いをし、受け流すことにする。