顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

 ちょうど、日なたの方からきゃー!と明るい声が聞こえてきて、カティアはそちらに目を向けた。

 午後の爽やかな陽気を受け、キラキラと輝く銀髪を揺らす男の子がひとり。
 ラピスが、彼よりも頭半分ほど背の高い男の子とともに、元気に中庭で駆け回っている。その傍らにはくすんだ金髪の騎士が、模擬刀を持って見守っていた。

 フロゥと、彼の愛息子であるレヴィンである。
 レヴィンはやんちゃ盛りの四歳で、父親譲りのくすんだ金髪をあちこち跳ねさせた、碧い瞳の男の子だ。まだあどけない顔立ちの中にも、どことなくフロゥに似た涼やかな雰囲気がある。

 ラリッジ家は代々、王家直属の影として仕えてきた一族だ。

 表向きは騎士の家柄だが、その本分は諜報と護衛にある。影としての技量はもちろんのこと、社交の場にも溶け込める身のこなしと、いざというときに気配を消す術を、幼い頃から叩き込まれて育つのだという。
 フロゥ自身もそうして育ち、今はセオの右腕として側に仕えている。今後は、ラピスの教育係としても参加してくれるそうだ。

 今回、レヴィンを連れて来たのは、ラピスの遊び相手にちょうどいいというのと、将来的な意味で顔合わせも兼ねているのだろう。

 今はフロゥがふたりに剣の稽古をつけてくれている。
 ただ、ラピスにとっては遊びの延長線のような感覚らしく、「ぼく、きしになれる!?」と大興奮している。ちょうど王都に来る馬車の中で、英雄譚を聞いていたのもあり、剣術に興味津々らしい。

 ラピスはすぐにレヴィンに懐き、まるで兄のように追いかけ回っている。
 そしてカティアは、その光景を眩しそうに見つめた。

「ふたりとも、とっても元気ですね」
「――ああ」

 セオも同じ気持ちでいてくれたらしい。優しい瞳でふたりの子供たちを見守っている。

「フロゥと俺も、こうして一緒に遊びながら育っていったからな」

 そうしてセオはどこか懐かしそうに目を細めた。

「城の中でしか遊べないとなると、それなりに退屈なものでな。フロゥは格好の遊び相手だった」

 ラピスとレヴィンがじゃれ合う姿に、かつての自分たちを重ねているのだろう。その横顔がふっと和らぐ。

「レスターもそうでな。この狭い世界で、彼らがいてくれたことが本当に救いだった」

 その穏やかな横顔に、カティアも自然と頬が緩む。

「ああいう子供時代も悪くはなかったが――」

 視線の先では、ラピスとレヴィンふたりがかりでフロゥに挑みかかり、返り討ちにあっている。その負けすらも楽しいのか、きゃー!という笑い声が響いていた。

 セオが気に掛けているのは、きっとラピスの今後のことだろう。
『星の子』は、二十歳になるまで王城の外に出られない。それは古くから定められた王家の掟であり、他国に狙われる危険から『星の子』を守るためのものだ。

 父王が直々に息抜きの方法を教える、とは聞いてはいるが――今まで自由に街を駆け回っていたラピスにとって、どれほど窮屈なことだろう。

「……本当は、自由に外を歩かせてやりたい」

 セオは、思い詰めるように吐き出す。

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