約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
「今思えば、馬鹿な話よね。妹のように可愛がっているのなら……きちんと説得するのが私の役目だった」

 里菜はそう言って小さく息を吐いた。

「里菜さん……」
「和葉さんに声を掛けて、連絡先を交換して……それから色々と話をするようになってね、少しずつおかしいって気づいたのよ」

 梓沙から聞かされていた和葉は人の気持ちを考えないような女性だったけれど、実際に話をしてみるとそんな印象とはまるで違っていることに気づく。

 そして和葉と湊が既に結婚しているという事実を知ったとき、里菜はすぐに梓沙へ報告した。

「梓沙、和葉さんと貴方の想い人の湊さんって……もう結婚してるみたいよ」

 その瞬間、梓沙の表情がこれまで見たこともないほど歪んだ。

「……信じられない……」

 それから怒りを押し殺すように呟いたあと梓沙は俯きながらぽつりと零す。

「父親にも内緒で籍を入れたなんて…………っとに、誰も役に立たないわね」

 その言葉に里菜は思わず息を呑んだ。

 自分が想像していた以上に梓沙が湊へ執着していることもそうだけど、何よりこれが梓沙の本性なのだと。

 梓沙のそれは無意識だったのか顔を上げると里菜へ縋るように問いかけてきた。

「ねぇ里菜ちゃん、どうにかしてその女と湊さんを引き離したいの! どうすればいい!?」
「……梓沙」

 里菜は困惑しながらも、 どうにか落ち着かせようとした。

「ねぇ梓沙、貴方が湊さんを好きな気持ちは分かるけど……相手が結婚してしまった以上、もうどうにもならないわよ」
「そんなことないわ! こうなれば、どうにかして湊さんに接触して既成事実を作ればいいのよ! あ、それか……その女をその辺の男に襲わせて湊さんと別れさせる。ねぇ、これならどうかな?」

 あまりにも予想外の言葉に里菜は言葉を失った。

「梓沙……流石にそれはやりすぎよ。冷静になって?」

 何とか考え直してもらおうとする里菜だったが梓沙は苛立ったように吐き捨てた。

「うるさいなぁ、旦那さんに不倫されてるくせに、偉そうなこと言わないでよ!」
「……っ」

 思いがけず自分の家庭のことを持ち出された里菜は息を呑む。

「聞き分けのいい良い子ちゃんでいるから他の女に盗られるのよ? もう少し自分から行動しなきゃ駄目よ里菜ちゃん」

 その言葉を聞いた瞬間、里菜の中で何かがすっと冷めていった。

 これまで自分は梓沙のことを妹のように思っていた。

 だからこそ間違った方向へ進もうとしているのなら止めてあげたいと思っていた。

 けれど――もう無理なのかもしれない。

 梓沙が自分をどう見ていたのか、自分の言葉がどれほど軽く扱われていたのか、それを思い知らされた気がしたから。

 里菜は静かに息を吐くと梓沙を真っ直ぐ見つめ、

「……私のこと、そういう風に思ってたのね」
「え……?」
「もういいわ。正直今の梓沙の考えにはついていけないから……」

 里菜は悲しげに目を伏せると最後にこう告げた。

「会うのは、これっきりにしましょう。さよなら」

 そう言って里菜は梓沙の前から立ち去り、その日を境に二人が会うことはなくなった。

 そして里菜はこれまで自分がしてしまったことを振り返り深く反省すると共に、今度は誰かの言葉に惑わされるのではなく自分自身の気持ちで和葉と向き合いたいと思い、里菜は新たな気持ちで和葉との関係を築こうとしていたのだった。
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