約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
 それから数日が経ったものの父親に関しての新たな連絡が届くことも無く、湊も和葉もそのことを気に掛けてはいたものの詩音の前ではいつもと変わらない様子で過ごしていた。

 そうして旅行の日が翌日に迫ったその日の夕方、湊の元に叔父から電話が掛かってきた。

『湊、久しぶりだな』
「叔父さん、お久しぶりです」
『兄さんがついさっき意識を取り戻したよ』
「…………そう、ですか」

 父親が意識を取り戻したという事実を告げられても湊の口から出たのは短い返事だけ。

 喜びとも安堵ともつかない複雑な感情が胸の内で燻っている。

『大我から話は聞いたよ。俺も兄さんが湊に色々しているのは分かっていたのに止めることもせず、見て見ぬ振りをしてきた……ごめんな』
「いえ、叔父さんは悪くないですから謝らないでください」
『いや、俺が間に入って止めるべきだったと反省しているんだよ……』

 叔父を責めるつもりはないけれど、だからといってこれまで父親から受けてきた仕打ちをなかったことにできるわけも無い湊は何も答えない。

『湊……その……俺が言える立場じゃないのは分かっているんだが、一度だけ、兄さんに会いに来てやってはくれないか?』
「…………」
『兄さん、湊のことを呼んでいるんだ。話がしたいって言っている……。もちろん俺も同席するから……お願いできないか?』

 叔父の懇願に湊は黙り込んだまま。

 父親とはもう関わりたくないというのが湊の本心だ。

 これまでのことを思えば、どんな状況であれ今更顔を合わせたところで何が変わるとも思えないし、むしろ再び関わることでようやく手に訪れ始めた平穏を乱されることのほうが恐ろしかった。

 それでも、意識を取り戻した父親が自分を呼んでいるという事実も簡単に割り切れるものではない。

 暫く考えたあとで湊は、

「…………少しだけ、考えさせてください……」
『……分かった。急かすつもりはないから、よく考えてくれ』
「はい……」

 そう答えて電話を切ると手にしたスマートフォンを見つめたままで立ち尽くす。

「湊さん……」

 気になった和葉が心配そうに声を掛ける。

「……親父の意識が戻ったようだ」
「そう……良かった」

 和葉は安堵したように表情を緩めたけれど、湊の表情から素直に喜べる状況ではないことを察して口を閉ざした。

「叔父さんが、一度親父に会ってほしいって言うんだ……。話がしたいって言ってるらしい」
「……そうなのね…………お義父様も、きっと色々と思うところがあるんじゃないかな……倒れられて、目が覚めて、考えることがあったのかもしれないし……」
「…………」
「もちろん、無理にとは言わないわ。でも、一度お見舞いも兼ねて顔を出してみるのもいいんじゃないかな?」

 これまでされて来たことを思えば湊が渋るのは当然だと理解している和葉は父親に会うべきだと強いるつもりはなかったけれど、もし会わなかったことを後になって悔やむのなら一度だけでも顔を合わせておくのも一つの選択ではないかと思ったのだ。
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