約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
 その後、三人で店内をゆっくりと見て回るけれど、暫く歩き続けると詩音が足を止めると、

「ママぁ……もうあるけない……」

 眠たそうに目を擦りながら声を漏らす。

「沢山歩いたから疲れちゃったよね。ほら、ママが抱っこ――」

 そう言って和葉が両腕を広げると詩音は首を横に振った。

「やだ」
「え?」

 そして、くるりと湊の方を向くと小さな両手を伸ばす。

「おにーちゃんにだっこしてほしい!」

 一瞬きょとんとした湊だったが、その表情はすぐに柔らかく崩れた。

「いいよ、おいで」

 どこか嬉しそうな声で応えると、軽い荷物だけを和葉へ渡す。

「これ、持っててもらえる?」
「あの、全部持つよ」
「こっちは重いからいいよ」

 言って湊は詩音をひょいと抱き上げた。

 すると、湊の腕に収まった途端、詩音は安心しきったように彼の肩へ頬を預け、

「……すぅ」

 数十秒もしないうちに規則正しい寝息を立てていた。

「もう寝ちゃった」
「余程眠かったんだな」

 詩音の寝顔を見つめる湊の横顔はどこまでも穏やかで、その光景を見つめながら和葉の胸には複雑な感情が広がっていく。

(確かに、眠かったのもあるんだろうけど……)

 普段は父親のいない生活が当たり前の詩音。

 本人はそのことについて何も言わないし、寂しいと口にしたことすらない。

 けれど、本当はこうして安心出来る男の人に甘えたかったのかもしれない。

 そう思うと胸の奥がギュッと締めつけられた。

 眠る詩音を抱いた湊と肩を並べ、和葉は静かに歩く。

 すると、湊がまるで独り言のようにぽつりと口を開いた。

「覚えてる? 昔こうしてショッピングモールを歩いたこと」
「……うん」
「あの時さ、俺、思ったんだよね」
「何を?」
「いつか、俺たちが結婚して子供が出来たら、こうして一緒に買い物したいなって」
「……っ」

 思いも寄らない言葉に、和葉の息が詰まる。

 湊は眠る詩音に視線を向けながら小さく笑った。

「少し形は違うけど……叶ったなって思ってさ」
「…………そ、そっか……」

 それ以上、和葉は何も返せなかった。

 胸の奥が熱くなり、言葉を紡ごうとするたびに感情が込み上げてしまう。

 どこか気まずい空気のまま、二人は駐車場へ戻った。

 車に乗り、このまま出発するのかと思っていると湊はおもちゃの入った紙袋をごそごそと探り、小さなラッピング袋を一つ取り出した。

「はい」

 そう言って差し出された袋を和葉は不思議そうに受け取る。

「何?」
「開けてみて」
「今?」
「うん」

 中身を教えてくれる様子は無く、首を傾げながら袋を開くと小さな箱が入っていて、

「これ……」

 箱の中にはシルバーの細いチェーンに小さなサークルモチーフが付いたネックレスが収められていた。

 華美な装飾はなく中央には小さな一粒の石が輝いている。

「可愛い……」

 思わず零れた呟きに湊は少し照れくさそうに笑った。

「実はそれ……俺だけで選んだわけじゃないんだ」
「え?」
「詩音ちゃんにも手伝ってもらった」

 思いがけない言葉に和葉は目を丸くする。

「詩音が?」
「ああ。おもちゃを買ったあと、俺、どうしても和葉に何かプレゼントがしたくてアクセサリー売り場に寄ったんだ。そこで詩音ちゃんに、『ママに似合うのはどれ?』って聞いたら真っ先にこれを指差してさ、『ママ、キラキラすきだから、これ!』って」
「そう、だったんだ……」
「それに、実は俺も一目見てそれが良いって思ったから、詩音ちゃんがこれって指差した時は驚いたよ」
「…………」

 プレゼントをしたいと思ってくれたことには驚いたが、彼は昔からそうだったと思い返す。

(本当に、湊さんは何一つ変わらない……)

 そのことは嬉しいはずなのに、和葉の胸が苦しくなる。

 変わっていてほしかった訳ではなく、むしろ、変わらないでいてくれたことは嬉しかったからこそ、離れていた四年という空白の時間を鮮明に突きつけられている感じがしていた。
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