約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
心境の変化
 自宅の最寄り駅まで送ることになって分かったのは、和葉が暮らす街が湊の住む街からそれほど離れていないということだった。

 とはいえ車で一時間ほどは掛かる距離ではある。

「驚いたな。てっきり、もっと遠くの街へ引っ越したのかと思ってた」
「……最初は実家に戻ったの。でも、実家には居場所がなくて……」
「……そうか」

 湊はそれ以上聞かなかった。

 和葉の家庭環境が決して恵まれていなかったことは昔から知っているからこそ、踏み込むべきではないと判断したのだ。

 暫く沈黙が続いたあと、湊は意を決したように口を開く。

「その……詩音ちゃんのお父さんとは……そのあと出会って結婚した……ってことなんだよな?」

 本音を言えば、聞きたくない。

 けれど、自分と別れたあと彼女がどんな人生を歩んできたのかは気になってしまう。

 しかし、和葉は困ったように視線を伏せた。

「……ごめん、その話は……」

 その言葉で、詩音の前でしたくない話なのだと察した湊は「悪い」とだけ呟いて、それ以上は追及しなかった。

 そんな重たい空気を破るように詩音が元気な声を上げる。

「おなかすいた!」

 時計を見ると、時刻は十八時を回った頃。

「そうだよな、夕飯の時間だものな。何か食べて帰ろうか」
「……そうね」

 湊はバックミラー越しに詩音へ笑いかける。

「詩音ちゃんは何が食べたい?」
「んーとねぇ……ハンバーグ!」
「ハンバーグか」

 悩む素振りを見せながらも即答した詩音に思わず笑みが零れる。

「和葉は?」
「私は何でも。湊さんが行きたいお店で大丈夫だから」
「……それなら、何でもあるファミレスにしようか」
「そうね。詩音もいるし、そのほうが助かるわ」

 こうして三人は通りがかったファミリーレストランへ入ることに。

 しかし、休日の夕食時ということもあり店内は家族連れやカップルで賑わっていた。

 受付を済ませた湊は番号札を受け取り、一度車へ戻る。

「やっぱり混んでるな。三十分くらい待つみたいだ」
「結構待つのね」
「夕飯時だから仕方ないよ」

 苦笑する湊の横で詩音はしゅんと肩を落とした。

「おなかすいたぁ……」
「もう少しだけ我慢出来るか?」
「うーん……」

 湊が優しく声を掛けると詩音は小さく頷くも、その様子を見た和葉はバッグから小袋のお菓子を取り出した。

「ご飯が食べられなくなると困るから、一つだけね」
「やったぁ!」

 嬉しそうにお菓子を受け取る詩音を見て、湊もほっと胸を撫で下ろす。

「これなら少しは大丈夫そうだな」
「ええ」

 三人は車内で順番を待ちながら、他愛もない話をして過ごした。

 詩音は今日ショッピングモールで楽しかった出来事や保育園の友達のことを湊に話し、それを聞いた湊は笑顔で相槌を打つ。

 そのやり取りを見守るうちに和葉の表情も少しずつ柔らかくなっていった。

 やがて、湊のスマートフォンに順番を知らせる通知が届く。

「そろそろ行こうか」
「うん!」

 詩音は元気よく返事をすると和葉と手を繋いで車を降り、三人は店内へ入り案内された窓際のボックス席へ腰を下ろした。

 そして、真っ先にメニューを開いた詩音は目を輝かせる。

「わぁ、いっぱいある!」

 その無邪気な声に湊と和葉は自然と顔を見合わせ小さく笑い合った。
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