約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
 車が走り続けること約一時間半、途中渋滞に巻き込まれて予定より少し遅れてしまったものの、無事に和葉たちが暮らす街へと辿り着いた。

「どこの駅まで送ればいい?」

 バックミラー越しに湊が尋ねると和葉は一瞬だけ言葉に詰まり、隣のチャイルドシートで眠る詩音へ視線を向ける。

 駅で降ろしてもらうか、それとも自宅まで送ってもらうか――。

 ぐっすり眠っている詩音を起こしてしまえば、きっと機嫌を損ねて泣き出してしまうであろうことは容易に想像出来る。

 時間も遅く人通りの少ない駅からバスで帰ることを考えると不安の方が大きかった。

 少しだけ迷った末、意を決して口を開く。

「……あの、申し訳ないんだけど、〇〇町〇〇番地のアパートまでお願いしてもいい?」

 和葉が駅ではなく住所を告げると湊は驚いた様子も見せず穏やかに頷いた。

「もちろん」

 そう答え、カーナビに住所を入力すると再び車を走らせる。

 やがて大通りを抜け住宅街へ。

 少し細い道を進みながら湊が何気なく口を開いた。

「駅から結構離れてるんだな。行きはタクシーだったのか?」
「ううん。アパートの近くにバス停があるから、バスで」
「そっか。それじゃあ住所を教えてくれて良かったよ。こんな時間に二人をバスで帰らせるなんてしたくなかったし」

 湊のその何気ない気遣いが胸に染みて和葉は小さく微笑んだ。

「……ありがとう」

 それからほどなくして、車は少し古びたアパートの前で静かに停まった。

「本当に今日はありがとう」

 和葉がシートベルトを外しながら礼を告げると、湊はトランクに積まれた荷物へ視線を向ける。

「あのさ、迷惑じゃなければ荷物を運ばせてくれないか?」
「え……?」
「詩音ちゃんも寝てるし、一人じゃ大変だろ。荷物を運んだらすぐ帰るから」

 その申し出に和葉は少しだけ考える。

 遠慮したい気持ちはあったけれど、詩音を抱いたまま荷物まで運ぶのは正直厳しい。

 やがて小さく頷き、申し訳なさそうに微笑んだ。

「……ありがとう。それじゃあ、車を奥の駐車スペースに停めてもらってもいい?」
「ああ、分かった」

 湊は頷くと車をゆっくりと動かしてアパート奥の駐車スペースへと車を停めた。

 荷物を車から下ろしていると、その物音に気づいたのか後部座席で眠っていた詩音がゆっくりと目を覚ました。

「うーん……」

 眠たそうに目をこすりながら身じろぎする詩音に和葉が優しく声を掛ける。

「詩音、お家に着いたよ。降りようか」

 そう言ってチャイルドシートのベルトを外したものの詩音は首を横に振り、小さな体をシートへ押しつけた。

「やだ! おりない!」
「何言ってるの? ほら、お家に入るよ?」
「やだ!」
「もう、詩音」

 思わぬ我が侭に和葉が困ったように眉を下げる。

 その様子を見ていた湊は手を止めて詩音の目線に合わせるように腰を落とし、穏やかな声で尋ねた。

「詩音ちゃん、どうして降りたくないの?」

 その言葉に詩音は少しだけ俯いたあと、寂しそうに湊を見つめ、

「だって……おにーちゃんとバイバイ、したくないもん……」

 降りたがらない理由を話し出した。

 詩音は分かっていた。

 車を降りてしまえば今日一日一緒に過ごした湊とは別れなければならないことを。

 それが幼い詩音には何よりも寂しかったのだ。
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