約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
 詩音が車を降りたがらない理由を聞いた瞬間、湊の表情はふっと緩んだ。

 自分と離れたくないと思ってくれている――その事実が嬉しくてたまらないという気持ちが、隠しきれず表情に滲み出ていた。

 そんな詩音と湊の姿を目にした和葉は胸の奥がきゅっと締め付けられるのを感じて複雑な気持ちになった。

「大丈夫だよ。まだバイバイじゃないから」

 和葉が優しく声を掛けると詩音は不安そうな瞳を向ける。

「ほんと?」
「うん。お兄ちゃんがお家まで荷物を運んでくれるんだって」
「そーなの?」
「そう。だから一緒にお家に行こう?」
「わかった!」

 ぱっと笑顔を咲かせた詩音が素直に車を降りたので、三人は並んでアパートの一階にある部屋へ向かって行く。

 詩音が自分で歩いていることと湊が手伝ってくれたことで無事に荷物を運び終えると、湊は和葉へ向き直り、

「それじゃあ、俺はこれで」

 そう言って踵を返そうとする。

 詩音は一足先に部屋の中へ入っているから、湊とはここで別れるのが一番良いはずだった。

 それを分かっているはずなのに、和葉の胸にはまだ彼と離れたくないという想いが静かに広がっていて、気づけばその気持ちは言葉となって零れていた。

「あの……もし、まだ時間があるなら……少し、上がっていかない?」

 口にした瞬間、和葉自身が一番驚いていた。

「え……いいのか?」

 思いがけない誘いに湊は目を丸くしていて、和葉は自分から言い出したことを少しだけ後悔する。

「……うん。その、何も言わずに帰っちゃったら詩音も悲しむだろうから」

 本当は自分がもう少し一緒にいたいと思ったからという本音は胸の奥へ押し込み、詩音を理由にして微笑んだ。

「……それじゃあ、お言葉に甘えようかな」

 湊が穏やかに笑うと和葉も小さく頷き共に家の中へ入った。

 湊が玄関で靴を脱ぐなり詩音は嬉しそうにお気に入りのおもちゃを抱えて駆け寄る。

「おにーちゃん! いっしょにあそぼ!」
「もちろん」

 嬉しそうに差し出されたおもちゃを受け取ろうとする湊を見て、和葉は慌てて声を掛けた。

「詩音、お兄ちゃんは長い時間運転してくれたんだから少し休ませてあげないと」

 その言葉に湊は苦笑しながら首を横に振る。

「全然疲れてないよ。それに、せっかく詩音ちゃんが誘ってくれたんだから、俺は一緒に遊びたいよ」

 そう言って床に座り込むと、詩音と向かい合って遊び始めた湊。

 部屋には詩音の弾むような笑い声と湊の優しい笑い声が響いていき、その微笑ましい光景に頬を緩めながら和葉はキッチンへ向かう。

 湊と自分にはコーヒーを淹れ、詩音には温かいココアを用意すると、トレーに乗せて二人の元へ戻って行った。
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