約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
「良かったら飲んで」

 そう言って和葉は淹れたてのコーヒーを湊の前へ、ココアを詩音の前へそっと置いた。

「わぁ、ココア!」

 嬉しそうに笑った詩音はココアを一口飲むと、すぐに湊の隣へ戻っていく。

 普段なら母親にべったりな詩音が今日は珍しく湊の傍から離れようとしない。

 その無邪気な懐きように湊は自然と頬を緩めていた。

 穏やかな時間はあっという間に過ぎ、時計の針は午後十時を回ろうとしていた。

 車の中で眠っていたこともあってすっかり元気な詩音。

(そろそろ詩音をお風呂に入れて寝かせないと……)

 和葉が時計を気にして落ち着かない様子を見せ始めると、それに気付いた湊は静かに腰を上げた。

「……そろそろ帰るよ」

 その言葉を聞いた途端、詩音は慌てて湊の腕に抱きついた。

「だめ!」

 必死に首を横へ振る詩音に和葉は優しく言い聞かせた。

「詩音、お兄ちゃんは明日もお仕事があるの。それに詩音も明日は保育園でしょう? もうお風呂に入って寝ないと駄目よ」
「やだ……」

 詩音は今にも泣きそうな顔で湊を見上げる。

「だって……おにーちゃん、かえったら……もう、あえないんでしょ?」

 その一言に、部屋の空気が静まり返った。

 また会いたいと伝えたい気持ちはあるけれど、和葉の気持ちも確かめないまま無責任な約束をすることは出来ない為、湊は何も言えなかった。

 そして和葉もまた、返す言葉を見つけられずにいたけれど不安そうに見つめる詩音の表情を見て小さく息を吐くと、何かを決意したように口を開いた。

「……そんなことないよ」

 詩音の頭を優しく撫でながら穏やかに微笑み、

「ママ、お兄ちゃんと連絡先を交換するから、また会えるよ」
「……和葉」

 驚いたように湊が名前を呼ぶ中、詩音はぱっと顔を輝かせた。

「ほんと?」
「うん、本当」

 和葉は小さく頷くと引き出しからメモ帳を取り出して電話番号とメッセージアプリのIDを書き込んで一枚切り取る。

「湊さん……これ、私の連絡先です」

 少しだけ照れくさそうに差し出された紙を湊は大切なものを受け取るように静かに受け取った。

「ありがとう……また、連絡しても構わないのか?」

 どこか遠慮がちに尋ねられたその言葉に和葉は少しだけ頬を染めながら小さく頷く。

「……ええ」

 湊にとって、その返事だけで十分だった。

「おにーちゃん、またあえる?」

 詩音が無邪気な瞳を向けながら問いかけると湊はすぐにしゃがみ込み、目線を合わせて優しく微笑んだ。

「ああ、勿論」
「いつ?」

 期待に満ちた声に和葉は思わず苦笑する。

「それはママが後でお兄ちゃんとお話して決めておくから、ね? 今日はもうお兄ちゃんにバイバイしよ?」

 詩音は少しだけ名残惜しそうな顔をしたものの素直に頷いた。

「……わかった。おにーちゃん、またね」
「うん、またね、詩音ちゃん、和葉」
「気をつけて帰ってね」
「ありがとう」

 湊は二人の姿を目に焼き付けるように見つめると、温かな余韻を胸に部屋を後にした。
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