約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
疑惑
 連絡先を交換してからというもの一日に数回やり取りを交わすことが二人にとって当たり前になりつつあったものの、不思議と「また会おう」という約束だけはいつまで経っても実現しない。

 詩音も時折、

「ねぇママ、おにーちゃんにいつあえるの?」

 そう和葉に聞くことがあったものの、

「お兄ちゃん、お仕事が忙しいみたいだから、そのうちね」

 と優しく誤魔化していた。

 もちろん、湊も何度か誘ってくれていた。

《できれば、また三人で会いたい》

 そう送られてくるたび、和葉の胸は嬉しさで満たされるけれど同時に怖くもあった。

 会ってしまえばきっと今よりもっと湊のことを想ってしまうからこそ踏み込む勇気が持てず、

《最近仕事が忙しくて》
《休日は予定があって》

 と、その場しのぎの理由を並べては誘いを断り続けていた。

 そんな日々が一か月半程過ぎた休日の午前一時を回った頃、自宅へ持ち帰った仕事をようやく終えて一息ついていた湊のスマートフォンが突然震えた。

 画面に表示された名前を見た瞬間、湊は思わず目を見開く。

「和葉?」

 こんな時間に彼女から電話が掛かってくるなど初めてで、ただ事ではないと直感した湊はすぐに通話ボタンを押す。

「もしもし! 和葉、どうした? 何かあったのか?」

 焦りを隠せない声で問い掛けると、向こうから返ってきたのはどこか戸惑った声だった。

『……え、湊さん?』

 自分から電話を掛けてきたはずなのに、まるで予想外の相手に繋がったかのような反応に違和感を覚えた湊は更に問い掛ける。

「どうした? 何か困ったことがあるんだろ?」

 するとようやく自分がかけたことに気づいたらしい和葉は申し訳なさそうに、

『ご、ごめんなさい……。その、ちょっと動揺していて……間違えて湊さんに掛けちゃったみたいで……』
「動揺?」

 気になるワードに短く聞き返すと、

『実は……夜に詩音が急に熱を出して……薬を飲ませて様子を見てたんだけど全然下がらなくて……それどころかどんどん熱が上がってきて……その、夜間救急を探そうと思ってスマホを見てたら間違えて電話しちゃったみたいで……』

 微かに震える声から和葉がどれほど取り乱しているのかが伝わった湊は、

「分かった。俺の知り合いに小児科医がいるからすぐに診てもらおう。今から迎えに行くから支度をして待っていてくれ」

 迷うことなくそう告げた。

「え? で、でも……こんな時間だし、迷惑なんじゃ……」

 戸惑いを滲ませる和葉に湊は若干強い口調で言い切った。

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!? 大丈夫だ、俺から連絡しておくから。和葉は詩音ちゃんのことだけを考えて。分かった?」

 その真っ直ぐな言葉に張り詰めていた糸が切れたのか和葉の瞳には熱いものが込み上げるのと同時に、

「ありがとう……。よろしくお願いします」

 素直に湊の厚意に甘えることにした。

 それから約四十分後、湊の車が和葉たちの住むアパート前に着くと、和葉は熱にうなされ苦しそうな詩音をそっと抱き上げ急いで外へ出る。

「大丈夫か?」

 駆け寄ってきた湊はすぐに後部座席のドアを開けた。

「ありがとう……」

 礼を口にしながら和葉は詩音を抱えたまま車へ乗り込むと湊はすぐに運転席へ戻り、静かな夜道を走り抜けて病院へと向かって行った。
< 21 / 28 >

この作品をシェア

pagetop