約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
 病院に到着すると、裏口から中へと案内された。

九条(くじょう)、悪いな、こんな時間に」

 詩音を抱いた湊が声を掛けると、白衣姿の医師、九条 夏希(なつき)は軽く手を振る。

「気にするな。それより、その子か?」
「ああ」

 夏希は詩音の額に触れると、熱さに眉を寄せた。

「だいぶ熱が高いな……。とりあえず診察室へ運ぼう」
「分かった」

 湊は詩音を抱えたまま夏希の後に続き、和葉も慌ててその背中を追い掛ける。

「……あの、本当にすみません。こんな夜中に……」

 何度も頭を下げる和葉に夏希は穏やかに微笑んだ。

「気にしないでください。夜中にお子さんが高熱でうなされていたら不安になるのは当然です」

 そう言ってから夏希は湊へ視線を向ける。

「鳴海、彼女を落ち着かせてやれ」
「ああ」

 湊は小さく頷くと、落ち着きを失っている和葉の肩をそっと支えて診察室の椅子へ座らせた。

「大丈夫だ。九条に任せよう」

 湊のその一言に、張り詰めていた和葉は小さく息を吐く。

 二人は祈るような思いで診察の様子を見守った。

 暫くして、診察と必要な検査を終えた夏希はカルテを閉じて二人へ向き直る。

「心配しなくても大丈夫です。風邪ですね」

 その言葉に和葉は思わず息を呑んだ。

「熱が高かったせいで少し呼吸器にも影響が出ていますが薬は投与しました。熱が下がれば呼吸も落ち着いてくるでしょう。命に関わるような病気ではありませんから安心してください」

 ようやく胸のつかえが下りたのか和葉の瞳に涙が滲む。

「……ありがとうございます。本当に、ありがとうございます……」

 そう何度も頭を下げる姿に夏希は安心させるように微笑んだ。

「念の為、もう少し様子を見ましょう」

 そして夏希は湊へ視線を移す。

「鳴海、少しだけ話がある。来てくれ」
「ああ」

 夏希に呼ばれた湊は和葉へ「すぐ戻る」と声を掛けると診察室を出て行き、残された和葉はベッドですやすやと眠る詩音の小さな手を優しく握り締めながら、その寝顔を見つめ続けていた。

 診察室を離れた二人は誰もいない別室へ入る。

「それで、話って何だ?」

 湊が尋ねると夏希は少し言葉を選ぶように間を置いてから口を開く。

「彼女……前に付き合ってた子だよな? お前が帰国したら居なくなっていたっていう」
「ああ。少し前に再会した」
「そうか……」

 夏希は腕を組むと表情を硬くした。

「それで……あの子供なんだけど」
「……ああ、俺も驚いたよ。まさか結婚してたなんてな」
「結婚?」

 湊の言葉に夏希は怪訝そうに眉をひそめた。

「彼女がそう言ったのか?」
「いや、旦那のことを聞いても上手くはぐらかされてさ。ただ、今はシングルみたいだから離婚したとかそんな感じだろうと思う」

 その返答を聞いた夏希は暫く黙り込み、意を決したように真っ直ぐ湊を見据え、

「あのさ……あの子、お前の娘って可能性はないのか?」

 そんな疑問を投げ掛けた。
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