約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
 ――詩音ちゃんが、俺の子供かもしれない。

 その可能性は湊の心を大きく揺さぶっていた。

 真実を知りたいけれど、それは今ここで問い詰めるべきことではない。

 それに、父親について尋ねても答えようとしない和葉にそれを尋ねたところで素直に打ち明けるとも思えない。

 とにかく今は和葉との関係を修復することが一番だと結論づけた湊はその思いを胸の奥へしまい込む。

「湊さん」
「ん?」

 少し躊躇うように名前を呼ばれ、湊は優しく視線を向けた。

「ごめんなさい」
「何だよ、いきなり」
「その……会いたいって言ってくれていたのに、私、断ってばかりで……」

 申し訳なさそうに俯く和葉に湊は苦笑する。

「ああ、そんなことか。忙しかったんだろ? 仕方ないさ」
「……っ、違うの」

 被せられたその言葉に湊の表情が少しだけ真剣になる。

「え?」
「本当は……会える日は何度かあったの。詩音も湊さんに会いたがってた。でも……どうしても勇気が出なかった」
「勇気?」
「……また湊さんに会ったら、 私……どんな顔をして、どんな風に接したらいいのかが、分からなかったから……」
「どういうことだ?」

 静かに問い返されると和葉は唇を震わせながら言葉を紡いだ。

「だって私は……何も言わずに貴方の前からいなくなった。再会するなんて思ってなかったし、もう二度と会うことなんてないと思ってた」

 湊は何も言わず、その続きを待つ。

「だけど、会ってしまった。そして、貴方の気持ちが昔と変わっていないって知って……そんなことを聞いたら、私……どうすればいいのか分からない……」
「和葉……」
「今更貴方に会う資格なんてないのに……これ以上優しくされたら、私は……」

 それ以上は言葉にならなかった。

 溢れそうになる想いを堪えるように俯いた和葉を前にした湊は手を伸ばすと、無言のままそっと和葉を抱き寄せた。

 突然の温もりに和葉は目を見開くけれど、抵抗することはなく自身の身体をその腕の中へ預けていく。

 すると、ベッドで眠っていた詩音が小さく身じろぎをした。

 その気配に気付いた二人はそっと身体を離して詩音へと視線を向け、

「詩音」
「詩音ちゃん?」

 優しく呼びかけると詩音はゆっくり瞼を開き、まだ焦点の定まらない瞳でぼんやりと二人の姿を映し出す。

「ママ……、おにーちゃん……?」

 か細い声でそう呟いた詩音に和葉は安堵したように微笑み、そっと頬に触れた。

「大丈夫? 痛いところはある?」
「ううん……」

 小さく首を横に振る詩音を見て湊もほっと息をつく。

「九条を呼んでくるよ」
「ありがとう」

 和葉が頷くと湊はすぐに病室を後にして夏希を呼びに向かった。

 詩音は眠たそうな目を擦りながら和葉を見上げると、

「ママ……おにーちゃん、おしごといそがしいの、おわったの?」

 突然の問いに和葉は一瞬だけ言葉を失う。

「おわったから……しおんに、あいにきてくれたの?」

 その無邪気な一言に胸が締めつけられながらも和葉は優しく微笑みながら詩音の頭をそっと撫でた。

「そうよ。お仕事が終わったから会いに来てくれたの。だから早く元気になって、また三人でお出かけしようね」

 そう優しく言い聞かせると詩音は嬉しそうに小さく頷いていた。
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