約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
「冗談じゃねぇよ……」

 車に乗り込んだ湊は運転席に腰を下ろすなり深いため息を吐いた。

 ハンドルに手を置いたまま、父親から告げられた話を思い返す。

「よりにもよって……今月末の日曜とか……」

 湊が苦々しげに呟いた。

 その日は詩音のお遊戯会の日で、何があっても行こうと決めた矢先のこと。

「……とはいえ、無視するわけにもいかねぇんだよな」

 今回の相手である君嶋グループは自社にとって重要な取引先だ。

 父親が独断で進めた話だからといって蔑ろにすることは許されない。

 行きたくないし、受けるつもりもない。

 だが、だからといって最初から断るわけにもいかなかった。

 どうにもならない事態に湊は苛立たしげに眉間を押さえた。

「……そういえば、お遊戯会は何時からなんだろう」

 ふと思い出し、スマートフォンを取り出すと、和葉にメッセージを送る。

 するとほどなくして返信が届いた。

《お遊戯会は午前10時からで、詩音のクラスの発表は11時くらいだと思う》

「……十一時か」

 時間を確認した湊は小さく息を吐いた。

 十一時からなら、詩音のお遊戯会を見て、その後に見合いへ向かえばいい。

「これなら見合いの時間を調整すれば何とかなりそうだな……」

 スケジュールについては道筋が見えてきたが、問題は誰に話を通すかだ。

 父親に直接言えば、詮索されるに決まっている。

 暫く考えた末、湊は真宙を思い浮かべた。

「……真宙に上手く言ってもらうか」

 少なくとも自分から父親へ話を持ちかけるよりことはうまく運ぶ。

 見合いについては一度会うだけ会って、その上で適当に理由をつけて断ればいい――このときの湊はそれで全て片付くと思っていた。

 けれど、その考えがいかに甘かったのかを知るのはもう少し先のことになる。

 数日後、湊は真宙を通じて見合いについていくつかの条件を伝えた。

 まず、時間は夕方以降。

 昼間は詩音のお遊戯会がある為、そこだけは絶対に譲れないから。

 勿論昼間の予定については上手く誤魔化すよう真宙に伝えていた。

 次に見合い相手と二人きりにはならないこと。

 その為に必ず仲介人を同席させること。

 そして最後に――今回はあくまで顔合わせだけ。

 湊は真宙にそう念を押した。

「この条件が無理なら俺は見合いはしないと親父に伝えてくれ」
「承知しました」

 真宙は頷き、提示された条件を父親に伝えることに。

 湊は条件を出しながらも当然父親から何か言われるだろうと考えていた。

 時間を指定したことについても二人きりを拒んだことについても必ず文句をつけてくる。

 少しくらい揉める覚悟はしていたのだが数日経っても父親からは特に何の連絡もなく、見合いは夕方にするという知らせだけが真宙から伝えられたのだった。
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