約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
 それを知った和葉の脳裏に浮かんだのは湊の顔。

 すぐにでも伝えたかったし、知ればきっと喜んでくれる。

 そう思っていたけれど湊の仕事も忙しくなり、連絡は次第に途切れ途切れになったり電話をしてもタイミングが合わないことが増えていた。

 そんな矢先、和葉の前に再び湊の父親が現れた。

「そろそろ決めてもらおう」
「……私は……」
「どうしても受け入れられないというのなら、君の両親にも話さなければならない」

 その瞬間、和葉の顔から血の気が引いた。

「……それだけは、やめてください」

 和葉にとって両親に知られることだけは避けたかった。

 幼い頃から両親の関心は常に兄に向けられ、何をしても兄と比べられる。

 自分にはいつも、『迷惑だけはかけるな』とだけ言われてきた。

 だからこそ両親に知られればどうなるのか分からない。

 湊の父親はそんな和葉の家庭環境まで調べ上げていたのだ。

「それが嫌ならもう一度よく考えておけ。一週間後、返事を聞きに来る」

 そう言い残してこの日は帰っていった。

 妊娠してからというもの身体の調子が悪い日も増えていて、精神的にも不安定になり以前なら冷静に考えられたことさえ上手く整理できない状態の中で突きつけられた話に和葉は困惑していた。

 そして考えが纏まらないまま一週間が経ち、湊の父親とともに一人の女性が現れた。

 父親が言うに、それは湊の正式な婚約者だとのこと。

 しかも婚約者の女性は和葉の妊娠に気づき、それを聞いた父親の表情が変わる。

「息子の子なのか?」
「…………はい」
「どうだか分からぬが、血が繋がっているというのならそうだな、もし男が産まれれば、その子供はこちらで引き取ろう」
「……え?」
「当然だろう? 湊の血の繋がった子供なら後継ぎなんだから。だが結婚は認めない。子供がいようがお前のような女と結婚させるつもりはない」

 そんな冷たい言葉を言い放った父親は一枚の小切手をテーブルの上へ置いた。

 そこに記された金額を見て和葉は息を呑んだ。

(五百万円……)

「これは手切れ金だ。これを受け取って息子の前から消えろ」
「……いりません…………私は、お金の為に湊さんと一緒にいるわけではありませんから……」
「そうか、ならば勝手にしろ――子供が無事に産まれると良いな」

 その言葉を聞いた瞬間、和葉の背筋が凍った。

(この人は……何かをするつもりなんだ……)

 どんな手を使ってでも自分と湊を引き離そうとするだろう。

 そう直感で思った和葉。

 自分一人ならどうなってもいい。

 けれど、お腹の中にいる小さな命だけは何としてでも守らなければならない。

 その思いだけが和葉の中に残り、差し出された小切手を静かに押し返した。

「…………分かりました、私が……身を引きます…………二度と彼には会いませんし、連絡も取りません。ですから、私からこの子を奪わないでください。お願いします……」

 本当は湊に伝えたかった。

 一緒に喜んでほしかった。

 この先もずっと一緒に生きたかった。

 けれど、恐怖と不安に追い詰められた和葉にはそれを押し通す勇気が無かった。

 何より、大切な湊との子供を危険に晒したくなかった。

 その思いだけを胸に和葉は湊の元から姿を消すことを決めた。

 自分が憎まれることになっても、二度と会えなくても子供を守る為に、和葉は一人で全てを背負うことを選んだのだった。
< 75 / 124 >

この作品をシェア

pagetop