約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
「親父には俺が会社を離れることを一切悟られたくない。引き継ぎは真宙を通して出来るだけ慎重に進めるつもりだ」
「分かった。俺は何も知らないふりをするよ」
「頼む」

 協力的な大我を前に湊はようやく少しだけ肩の力を抜いた。

「……これで、俺も安心して前に進めるよ」
「でも……」

 大我が心配そうに尋ねる。

「湊くんは、これからどうするつもりなの?」
「知り合いを頼ってみるつもりだ。それで駄目なら何か仕事を探す」
「本当に、それでいいの?」
「ああ」

 湊は迷いなく答えた。

「俺の心配はしなくていい。和葉と詩音(娘)さえいてくれれば俺は何だって出来る」
「…………そっか」

 そして、大我は胸の奥に込み上げる悔しさを飲み込むようにもう一度だけ頷いた。

「俺は湊くんの意志を継いで会社を守る立場になるけど、もし、伯父さんと和解することが出来て戻れる状況になる時が来たら、いつでも戻って来て欲しい……それは、約束して欲しいんだ」
「……ありがとう。そうなることは無いと思うが、その時はまた……お前と共に働けるのを楽しみにしているよ」
「うん……」

 こうして会社の今後については大我に一任することが決まり、湊の心配ごとは一つ解消された。

 それから真宙や大我に後のことを任せ、湊はある人物と連絡を取り、急遽会うことになった。


「久しぶり、湊くん」
「お久しぶりです、誠(まこと)さん」

 久しぶりに顔を合わせた初瀬(はせ) 誠は、海外研修時代に現地で知り合った五歳年上の会社経営者で面倒見がよく、湊にとって頼りになる兄のような存在でもある。

 研修を終えてからはたまに近況を報告し合う程度の付き合いだったのだが、今回湊から相談を持ちかけると迷うことなく帰国してくれた。

「連絡を貰って驚いたよ」
「すみません、突然こんなことを……」
「いや、全然構わない。それより……社長の座を退くっていうのは、本当なのか?」
「はい。さっき、今後を任せる副社長にも話をしてきました」
「そうか……」

 誠は暫く黙っていたが本題を切り出した。

「それで、俺に頼みたいのは仕事の斡旋だったよな?」
「はい。今の会社とは関係のないところで働ければと思っています」
「それは全然構わないよ。ただ……湊くんは、この先も国内で生活していくつもりなのか?」
「……そのつもりです。勿論、国内に残ることでリスクがあるのは分かっています。でも、娘がいる以上……海外へ連れて行くというのは……」
「娘ちゃん、今何歳だっけ?」
「四歳です」
「だったら、まだ十分海外の生活にも適応できると思う」
「…………」
「国内に残って親父さんたちから逃げ続けることを考えたら、いっそのこと渡米するっていうのも選択肢に入れていいんじゃないか?」

 確かに、それが一番安全であることは湊も分かっていた。

 実家から遠く離れれば、これまで築いてきた人脈も影響力も届きにくくなる。

「こっちに来られるなら、うちの会社で雇うことが出来る。仕事は勿論、生活面でも出来る限り力になるよ」
「……ありがとうございます」
「俺にも子供がいるから、家族を連れて環境を変える大変さは分かってるつもりだ。でも、それでも……安心して暮らせる場所を選ぶっていうのは悪いことじゃないと思う」
「…………」

 仕事も用意してもらえて生活を立て直す環境もあり、何より和葉と詩音を守るという目的だけを考えればそれは魅力的な選択肢だった。
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