土佐弁男子は気まぐれ猫さん
そして待ちに待った文化祭当日。
秋晴れの空は雲ひとつない見事な快晴で、絶好のお祭り日和だった。校門の前に着くと、書道部がダイナミックな筆遣いで書いた『第一桜ヶ丘中学校文化祭』という大きな立て看板が誇らしげに掲げられている。
校庭には『お好み焼き』『たこ焼き』『スーパーボールすくい』など色んな出店が軒先並べて呼びかけの声を張り上げている。
「莉子ちゃん、見てみぇ! 人がたくさんおって、お祭りみたいぜよー!」
登校するやいなや、校庭の盛り上がりに目を輝かせた龍馬が、私の袖をきゅっと引っ張った。出店から漂ってくるソースの香ばしい匂いに、彼の鼻がヒクヒクと動いている。
「莉子ちゃん、美味しいのぉ!」
さっそく買った焼きたてのたこ焼きをハフハフと口に放り込み、龍馬は満足そうに目尻を下げてへにゃりと笑みを浮かべた。熱々でハフハフ言っている姿が可笑しくて、私も思わず笑ってしまう。
「そうだね!」
教室に入ると、そこはすっかりおしゃれなカフェへと模様替えされていた。
黒板には美術部の手によるアンティーク調のイラストが描かれ、机には綺麗なクロスがかけられている。
「莉子、龍馬くん! やっと来たー! さっそく衣装に着替えてきて!」
教室に入るなり、衣装係の女子たちが手招きしながら衣装の入った袋を差し出してきた。
私と龍馬はそれぞれ男子更衣室と女子更衣室へ向かい、準備に取りかかる。
着替えを終えて一足先に教室へ戻ると、ロング丈のメイド服を着た結衣が「莉子、めちゃくちゃ可愛い!」と手を叩いて迎えてくれた。
フリルの裾を整えながら少し照れくさく笑っていると、廊下の方から「龍馬くんかっこ良すぎ!!」という女子黄色い声が聞こえてきた。
「うわ、なにあの執事さん!? スタイル良すぎじゃない!?」
「ちょっと写真撮ってもらおうかな……!」
廊下のあちこちから黄色い歓声とざわめきが上がり、教室の入口に人だかりができ始める。
人混みを割って教室に入ってきたのは、ベストスタイルの執事服をバッチリ着こなした龍馬だった。
シックな黒のベストとスラックスが、彼のすらりとした長い脚と立ち姿を引き立てている。いつもの無邪気なお調子者ぶりはどこへやら、どこかの良家のお坊ちゃんかと思わせるような、圧倒的な気品を漂わせている。
「おー、似合ってるぞー」
結衣が感心したように口笛を吹く。
けれど当の本人は、周りの視線なんてまったく目に入っていない様子だった。
教室に入るなり、瞳を輝かせてまっすぐに私のもとへ歩み寄ってくる。そして、私の前でピタッと足を止めると、ポカンと口を開けて固まってしまった。
「……莉子ちゃん」
「な、なに……?変かな?」
急に黙り込んだ彼に不安になって、首を傾げる。
すると龍馬は、耳まで真っ赤に染め上げながら、深く息を吐き出した。
「お姫様みたい……!」
「お、おう。……ありがとう?」
ストレートすぎる龍馬の言葉に、周りの女子たちが一斉にキャーッと黄色い歓声を上げた。
「ちょっと龍馬くん、さらっと凄まじい破壊力投下しないでよ!」
「莉子、顔が真っ赤になってるー!」
周りににニヤニヤしながら冷やかされ、私の顔は一瞬でリンゴみたいにカッと熱くなる。当の本人はといえば、周囲の冷やかしなんてどこ吹く風で、照れくさそうにふわふわの茶髪をくしゃっと掻きながら、心底嬉しそうに目元をほころばせていた。
「盛り上がってるところ申し訳ないけど、そろそろオープン時間だー!」
学級委員長の威勢の良い声が教室中に響き渡る。
クラスメイトが一斉にそれぞれの配置へとつき、高まる緊張と胸の高鳴りが心地よく室内を満たしていく。
私の担当は午前中だけだから、午後からは自由時間なのだ。
委員長の合図とともにカラリとドアが開け放たれると、待ってましたとばかりにお客さんが雪崩れ込んできた。
「いらっしゃいませぜよー! こちらの席へどうぞ!」
誰よりも大きな声を出しながら、龍馬は軽やかな足取りでお客さんを案内し始める。
彼の執事服姿は効果抜群で、女子生徒から「可愛い執事さんね!」「写真撮ってもいい?」と引っ張りだこだ。龍馬も「おう、えいよ!」と、あの笑顔で神対応を見せている。
(楽しそうで良かった〜)
接客を楽しむ龍馬の姿に、私も自然と笑みがこぼれた。
そうして大盛況のうちに午前の部を終わらせ、待ちに待った自由時間を迎えた私達は、お腹を空かせて校庭へと向かった。
青空の下、どこを見渡しても笑顔の生徒や保護者でいっぱいで、あちこちから香ばしい匂いと賑やかな歓声が上がっている。
「莉子ちゃん、次はあっちに行ってみんか!」
自由時間になった途端、龍馬は執事服からいつもの制服に着替え、私を引きずるようにしてお目当てのお店に走っていく。
「元気だね!?」
「当たり前ぜよ! 午前中はいっぱい働いたき、お腹がペコペコなんじゃ!」
龍馬は私の手をしっかりと引いたまま、人混みを軽やかにつり抜けていく。勢いよく連れてこられたのは、香ばしいソースと削り節の匂いが漂うお好み焼きの出店だった。
「すみませーん! お好み焼きふたつくだされ!」
「はいよ! 熱々だから気をつけてね」
威勢の良い店員さんからパックを受け取ると、私達は校庭の端にある大きな木の下のベンチへ移動した。
「あ、あとで図書室に行って良い?」
お好み焼きを頬張ろうとしていた龍馬が、ピタリと動きを止めた。
「図書室も何かやっちゅーが?」
「うん。実は図書委員会が『古本市』と『手作りブックカバーのワークショップ』をやってるらしくて。ちょっと気になってたんだよね」
「なるほど、そういうことか!莉子ちゃんは本当に本が好きなんじゃなぁ。もちろんえいよ!」
お好み焼きを食べ終わると校舎の奥へと向かう。
階段を上がって普段は静まり返っている三階の図書室の扉を開けると、そこは思いのほかたくさんのお客さんで賑わっていた。
入り口付近にはずらりと掘り出し物の本が並ぶ古本市コーナーがあり、奥のテーブルでは色とりどりの和紙や千代紙、リボンを使ってブックカバー作りが行われている。
「あ、莉子さん。いらっしゃい」
しおりを手にした図書委員の先輩が、カウンターから柔らかい笑みを浮かべて出てきた。
「あ、先輩! こんにちは。古本市とワークショップ、すごく賑わってますね!」
「うん。これをきっかけに本を好きになってもらったら良いなって」
先輩は「お友達?」と柔らかく微笑み、龍馬へと視線を向けた。
「おう!わしは坂本龍馬ぜよ!」
堂々と胸を張って自己紹介する龍馬に、先輩は「坂本……あ、君があの有名な転校生くんか。よろしくね」と、驚く風でもなく優しく頷いた。
「……よろしく」
龍馬は先輩をじっと見つめながら、少しだけ身を引くようにして返事をした。
「莉子さん、ワークショップもやっていく? 好きな柄の紙を選んで、自分だけのブックカバーが作れるんだ」
「はい!ぜひやってみたいです!」
先輩に案内されて奥のテーブルへ向かうと、そこには和紙や千代紙、色とりどりのリボンやスタンプがずらりと並べられていた。私と龍馬は隣同士で並んで座る。
「莉子ちゃん、どれにするが?」
さっきまでのモヤモヤを吹き飛ばすように、龍馬が私の顔を覗き込んできた。
「うーん、私はこの淡い色の和紙に、紺色のリボンを合わせようかな。龍馬は?」
「わしはこれじゃ!」
龍馬が迷わず手にとったのは、黒地に金の市松模様が入った、なんとも粋でかっこいい千代紙だった。
「わぁ、かっこいい!」
私が褒めると、龍馬は「じゃろ!」と分かりやすく機嫌を直して、パッと誇らしげな笑顔を見せた。
「莉子ちゃん、猫の絵を描いてほしい!」
そう言って、龍馬はこれみよがしにチラリとカウンターの先輩の方を伺うと、私の手に自分の手を重ねるようにしてぎゅっと握ってきた。
「莉子ちゃんが描いてくれた猫の絵、二番目に大事にするきね!」
「じゃあ、かっこよく描かないとね……!あれ、二番目?」
流れ的にてっきり『一番大事にする』と言われるものだと思って意気込んでいた私は、思わずペンを握ったまま固まってしまった。一気に拍子抜けしてしまい、思わず龍馬の顔をまじまじと見つめ返す。
「え、じゃあ龍馬の一番大切なやつって何?」
少しむくれて問い詰めると、龍馬は私の手を握りしめたまま、瑠璃色の瞳をきらめかせて笑った。
「一番大事なのは、莉子ちゃん本人ぜよ!物より何より、莉子ちゃんが一番なんじゃ!」
ド直球すぎる答えが返ってきて、一瞬理解ができなかった。
「ありがとう!私も龍馬が大事だよ」
「ほんま!?」
大切な友達だし、この答えで合ってるよね?
秋晴れの空は雲ひとつない見事な快晴で、絶好のお祭り日和だった。校門の前に着くと、書道部がダイナミックな筆遣いで書いた『第一桜ヶ丘中学校文化祭』という大きな立て看板が誇らしげに掲げられている。
校庭には『お好み焼き』『たこ焼き』『スーパーボールすくい』など色んな出店が軒先並べて呼びかけの声を張り上げている。
「莉子ちゃん、見てみぇ! 人がたくさんおって、お祭りみたいぜよー!」
登校するやいなや、校庭の盛り上がりに目を輝かせた龍馬が、私の袖をきゅっと引っ張った。出店から漂ってくるソースの香ばしい匂いに、彼の鼻がヒクヒクと動いている。
「莉子ちゃん、美味しいのぉ!」
さっそく買った焼きたてのたこ焼きをハフハフと口に放り込み、龍馬は満足そうに目尻を下げてへにゃりと笑みを浮かべた。熱々でハフハフ言っている姿が可笑しくて、私も思わず笑ってしまう。
「そうだね!」
教室に入ると、そこはすっかりおしゃれなカフェへと模様替えされていた。
黒板には美術部の手によるアンティーク調のイラストが描かれ、机には綺麗なクロスがかけられている。
「莉子、龍馬くん! やっと来たー! さっそく衣装に着替えてきて!」
教室に入るなり、衣装係の女子たちが手招きしながら衣装の入った袋を差し出してきた。
私と龍馬はそれぞれ男子更衣室と女子更衣室へ向かい、準備に取りかかる。
着替えを終えて一足先に教室へ戻ると、ロング丈のメイド服を着た結衣が「莉子、めちゃくちゃ可愛い!」と手を叩いて迎えてくれた。
フリルの裾を整えながら少し照れくさく笑っていると、廊下の方から「龍馬くんかっこ良すぎ!!」という女子黄色い声が聞こえてきた。
「うわ、なにあの執事さん!? スタイル良すぎじゃない!?」
「ちょっと写真撮ってもらおうかな……!」
廊下のあちこちから黄色い歓声とざわめきが上がり、教室の入口に人だかりができ始める。
人混みを割って教室に入ってきたのは、ベストスタイルの執事服をバッチリ着こなした龍馬だった。
シックな黒のベストとスラックスが、彼のすらりとした長い脚と立ち姿を引き立てている。いつもの無邪気なお調子者ぶりはどこへやら、どこかの良家のお坊ちゃんかと思わせるような、圧倒的な気品を漂わせている。
「おー、似合ってるぞー」
結衣が感心したように口笛を吹く。
けれど当の本人は、周りの視線なんてまったく目に入っていない様子だった。
教室に入るなり、瞳を輝かせてまっすぐに私のもとへ歩み寄ってくる。そして、私の前でピタッと足を止めると、ポカンと口を開けて固まってしまった。
「……莉子ちゃん」
「な、なに……?変かな?」
急に黙り込んだ彼に不安になって、首を傾げる。
すると龍馬は、耳まで真っ赤に染め上げながら、深く息を吐き出した。
「お姫様みたい……!」
「お、おう。……ありがとう?」
ストレートすぎる龍馬の言葉に、周りの女子たちが一斉にキャーッと黄色い歓声を上げた。
「ちょっと龍馬くん、さらっと凄まじい破壊力投下しないでよ!」
「莉子、顔が真っ赤になってるー!」
周りににニヤニヤしながら冷やかされ、私の顔は一瞬でリンゴみたいにカッと熱くなる。当の本人はといえば、周囲の冷やかしなんてどこ吹く風で、照れくさそうにふわふわの茶髪をくしゃっと掻きながら、心底嬉しそうに目元をほころばせていた。
「盛り上がってるところ申し訳ないけど、そろそろオープン時間だー!」
学級委員長の威勢の良い声が教室中に響き渡る。
クラスメイトが一斉にそれぞれの配置へとつき、高まる緊張と胸の高鳴りが心地よく室内を満たしていく。
私の担当は午前中だけだから、午後からは自由時間なのだ。
委員長の合図とともにカラリとドアが開け放たれると、待ってましたとばかりにお客さんが雪崩れ込んできた。
「いらっしゃいませぜよー! こちらの席へどうぞ!」
誰よりも大きな声を出しながら、龍馬は軽やかな足取りでお客さんを案内し始める。
彼の執事服姿は効果抜群で、女子生徒から「可愛い執事さんね!」「写真撮ってもいい?」と引っ張りだこだ。龍馬も「おう、えいよ!」と、あの笑顔で神対応を見せている。
(楽しそうで良かった〜)
接客を楽しむ龍馬の姿に、私も自然と笑みがこぼれた。
そうして大盛況のうちに午前の部を終わらせ、待ちに待った自由時間を迎えた私達は、お腹を空かせて校庭へと向かった。
青空の下、どこを見渡しても笑顔の生徒や保護者でいっぱいで、あちこちから香ばしい匂いと賑やかな歓声が上がっている。
「莉子ちゃん、次はあっちに行ってみんか!」
自由時間になった途端、龍馬は執事服からいつもの制服に着替え、私を引きずるようにしてお目当てのお店に走っていく。
「元気だね!?」
「当たり前ぜよ! 午前中はいっぱい働いたき、お腹がペコペコなんじゃ!」
龍馬は私の手をしっかりと引いたまま、人混みを軽やかにつり抜けていく。勢いよく連れてこられたのは、香ばしいソースと削り節の匂いが漂うお好み焼きの出店だった。
「すみませーん! お好み焼きふたつくだされ!」
「はいよ! 熱々だから気をつけてね」
威勢の良い店員さんからパックを受け取ると、私達は校庭の端にある大きな木の下のベンチへ移動した。
「あ、あとで図書室に行って良い?」
お好み焼きを頬張ろうとしていた龍馬が、ピタリと動きを止めた。
「図書室も何かやっちゅーが?」
「うん。実は図書委員会が『古本市』と『手作りブックカバーのワークショップ』をやってるらしくて。ちょっと気になってたんだよね」
「なるほど、そういうことか!莉子ちゃんは本当に本が好きなんじゃなぁ。もちろんえいよ!」
お好み焼きを食べ終わると校舎の奥へと向かう。
階段を上がって普段は静まり返っている三階の図書室の扉を開けると、そこは思いのほかたくさんのお客さんで賑わっていた。
入り口付近にはずらりと掘り出し物の本が並ぶ古本市コーナーがあり、奥のテーブルでは色とりどりの和紙や千代紙、リボンを使ってブックカバー作りが行われている。
「あ、莉子さん。いらっしゃい」
しおりを手にした図書委員の先輩が、カウンターから柔らかい笑みを浮かべて出てきた。
「あ、先輩! こんにちは。古本市とワークショップ、すごく賑わってますね!」
「うん。これをきっかけに本を好きになってもらったら良いなって」
先輩は「お友達?」と柔らかく微笑み、龍馬へと視線を向けた。
「おう!わしは坂本龍馬ぜよ!」
堂々と胸を張って自己紹介する龍馬に、先輩は「坂本……あ、君があの有名な転校生くんか。よろしくね」と、驚く風でもなく優しく頷いた。
「……よろしく」
龍馬は先輩をじっと見つめながら、少しだけ身を引くようにして返事をした。
「莉子さん、ワークショップもやっていく? 好きな柄の紙を選んで、自分だけのブックカバーが作れるんだ」
「はい!ぜひやってみたいです!」
先輩に案内されて奥のテーブルへ向かうと、そこには和紙や千代紙、色とりどりのリボンやスタンプがずらりと並べられていた。私と龍馬は隣同士で並んで座る。
「莉子ちゃん、どれにするが?」
さっきまでのモヤモヤを吹き飛ばすように、龍馬が私の顔を覗き込んできた。
「うーん、私はこの淡い色の和紙に、紺色のリボンを合わせようかな。龍馬は?」
「わしはこれじゃ!」
龍馬が迷わず手にとったのは、黒地に金の市松模様が入った、なんとも粋でかっこいい千代紙だった。
「わぁ、かっこいい!」
私が褒めると、龍馬は「じゃろ!」と分かりやすく機嫌を直して、パッと誇らしげな笑顔を見せた。
「莉子ちゃん、猫の絵を描いてほしい!」
そう言って、龍馬はこれみよがしにチラリとカウンターの先輩の方を伺うと、私の手に自分の手を重ねるようにしてぎゅっと握ってきた。
「莉子ちゃんが描いてくれた猫の絵、二番目に大事にするきね!」
「じゃあ、かっこよく描かないとね……!あれ、二番目?」
流れ的にてっきり『一番大事にする』と言われるものだと思って意気込んでいた私は、思わずペンを握ったまま固まってしまった。一気に拍子抜けしてしまい、思わず龍馬の顔をまじまじと見つめ返す。
「え、じゃあ龍馬の一番大切なやつって何?」
少しむくれて問い詰めると、龍馬は私の手を握りしめたまま、瑠璃色の瞳をきらめかせて笑った。
「一番大事なのは、莉子ちゃん本人ぜよ!物より何より、莉子ちゃんが一番なんじゃ!」
ド直球すぎる答えが返ってきて、一瞬理解ができなかった。
「ありがとう!私も龍馬が大事だよ」
「ほんま!?」
大切な友達だし、この答えで合ってるよね?


