夜を誘惑する華――Jazz singer

第3話 手放せない程のジャズの魅力

 ケースからトランペットを取り出して構えると……静まり返る。
 まだ音も鳴っていないのに、薄暗い照明に照らされている彼を見つめているだけで、惚れ惚れしてしまう。

 スーツはシュッとして着こなしているのに、ふと目がいった手元は大きく、綺麗な指先と浮き出ている血管に目を奪われる。

 ……それだけじゃない。薄暗い青い光に照らされた顔は切なく見える。黒い髪型に綺麗なまつげ、どこを見渡しても魅力的に見える。

 恥ずかしくて少し下を向く。色気のある首筋が見えると、どこを見ればいいの!? と困惑した。だが……次の音で余計な感情は全て吹っ飛ぶ。


 色気を感じる高々な音色を響かせ、胸を締め付ける。凜とした立ち姿は見る人を引きつけて、彼の顔に笑みが溢れた。静寂の中なのに、ステージは熱く燃えているように感じてしまう。

 リズムが変わると、しっとりした音色に変化をする。高鳴った鼓動は徐々に深く沈み、切ない感情へ変わってゆく。

 2度と忘れないんじゃないか……と、思わせるほどの音色は、静かに終わりを見せるとお辞儀をした。その姿を見て終わったことにハッと気付く。遅れて大きな拍手が巻き起こり、彼はステージを降りた。

 私の腕を優しく掴み、ゆっくりと元居たカウンターに一緒に戻る。

「忘れない夜になった?」

 そうクスッと笑顔を見せながら話す姿を見て、我に返る。
「……うん。凄すぎて言葉に出来ないよ」
「なら、良かった」

 彼はカクテルを注文すると、耽(ふけ)るように呟く。
「俺には……夢があるんだ。いつか自分が認める、素敵な歌声で奏でたいってね」

 話しを聞いていると、慌てるように訂正をする。
「いきなりごめんね。ついうっかり言葉が出ちゃった」
「いえいえ。大丈夫ですよ」

 彼はその後、こんな事を告げた『俺の演奏は、自分が認めるシンガーと作り出して、ようやく完成する』と……。

 カクテルがなくなるまで、ジャズの話しを語り合い、店を後にした。
 彼の名前は……湊(みなと)。トランペットと、テナーサックスが得意な演奏家。聞き上手で話しも上手い、身長が177センチで、色気がある26歳の男性だ。

 また会えるかなぁ……そんな思いを胸に抱いて、私も店を後にする。
 今夜の短い時間で、私の心は手放せない程にジャズの魅力に染まっていた。
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