夜を誘惑する華――Jazz singer
 ◇◇◇

 あの夜から、毎回通い詰めて居るほどに、私生活にジャズの音色が溶け込んだ。
 最近は自分もステージに立ちたいとすら思うことがある。でも……無理なことは分かりきっている。

 私には音楽の才能がない。趣味で歌うことはあるが、人前で歌ったことは恥ずかしくて一度もない。憧れるだけなら……そう何度も思いながらステージを見つめていた。

 だからだろう。ついうっかり、カウンターでお酒を作っているネコの前で、思いが漏れてしまった。

「私もステージで歌えたらなぁ……ハァー」

 いけないっと思い口を閉じると、すでに遅くネコに話し掛けられる。

「あらぁ、良いじゃない」
「え? でも……私人前で歌うほど上手くないし」
「ならぁ、こんなのはどうかしら? ここのバーは、休日交流会を開いているの。皆で意見を出したりして、高め合ったりしているわ。メンバーに誘うことも良くあるから、上手く行けば組むことも出来るかも知らないわよ」

 提案に興味を持ったが、まだ心のどこかで不安を感じる。それを伝えると……。

「そうねぇ。なら私もその日お店に来るわよ」
「申し訳ないです。休日に……」
「気にしないで良いわよ。夕魅(ゆみ)ちゃんにはお世話になっているし、私も久しぶりに見たいと思って……あっ、これ予定表ね」

 甘える事にして予定を決めた。

 でも、この交流会で……私の人生が大きく変わるとは思いもしなかった。

 ◇◇◇

 ついに予定をしていた交流会の日になった。
 普段通っている時間ではない為、外はまだ明るい。Cats that gather at nightの扉をゆっくり開けると、いつもと違う景色が広がっていた。

 様々な楽器を手に持ち、数多くの演奏家が話しをしている。ステージでは初めて見る顔が上がって、演奏をしていた。

「あっ! いらっしゃい」

 声の方を向くと、カウンターの中から手を振るネコの姿が目に入る。近くまで向かい話し掛けた。

「こんにちは。まだ歌わないのに、緊張してきました……」
「最初は皆、そんなもんよ。出番は6人先だから、今のうちに休んどきなさい」

 最初の予定では、歌うつもりがなかった。でも、アドバイスを貰うなら、歌わなければ始まらない。だから今日まで、スミレのデビュー曲を何度も聞いて、練習を積み重ねてきた。

 もうここまで来たら、勢いに任せて歌おうと覚悟が決まる。
 だが、次々と歌う人が変わり、そのたび緊張も増していった。いくら覚悟を決めたところで、緊張がなくなる訳ではない。

 心が落ち着かないまま、自分の出番が来てしまう……。
 ネコに優しく背中を押されて、ステージの方へゆっくりと歩みを進める。胸の鼓動が激しさを増して、緊張で手に汗がかいた。下を向きなが段差を一歩一歩上がると、ステージの真ん中に移動をして、顔を見ないようにマイクを調整をする。
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