夜を誘惑する華――Jazz singer
第4話 ジャズシンガーに憧れて
ゆっくりと顔を上げると……大勢の人が見上げて見つめている。緊張で息苦しくなり、バレない程度に呼吸が乱れる。
そんな時、遠くから見ているネコが、深呼吸の身振りをしていた。その姿に合わせて呼吸をすると落ち着きを取り戻す。
だけど、状況が大きく変わった訳じゃない――しっかりしろ……私。自分が挑戦したくてこの場を用意して貰ったんだ。自分なりに練習を今日まで積み重ねてきた。私もスミレみたいに背中を押せる人になりたいって。
私はマイクを持つと、しっかり前を向いて話す。
「こんにちは。今……凄く、緊張しています。皆さんのように、上手に出来ないかも知れませんが、頑張るので聞いてください」
震える声を必死に抑えて伝えると、思いもしない反応が返ってくる。
「頑張れー!!」
「リラックスリラックス」
数人だけではなく、周りの人が声を出して応援をしてくれた。暖かさに背中を押されて始める。
「Your Tears Will Bloom into a Flower So Divine(あなたの涙は花のように美しく育っていく)」
タイトルを告げると、何度も耳にした音楽が流れてきた。
不思議とこの音楽を聴くと、1人じゃない気がする。隣には何度も背中を押してくれたスミレが側に居る気がした。
私はまるで、取憑かれるように歌い始める。
周囲の音は段々と聞こえなくなり、最後は自分の歌声すら消えた。深く、深く沈んでいく。観客は歌い始めるまで優しい表情で見守っていたが、歌い始めると表情は一変し、真剣に見つめていた。
なぜかそんな姿を見ても、緊張をすることなく歌い終えた。胸がようやく安堵すると、お辞儀をしてからステージを降りる。歌い終えると、拍手は1人も起きなかった。でも、歌ったことに意味がある。私は胸を張ってネコの元へ向かった。
ネコの近くに近づいた頃、まばらに拍手が響く。ステージに立っていないのに、視線を向けられていた。ネコの元へ着くと抑えていた言葉が漏れ出す。
「えへへ……失敗しちゃった。拍手も起きなかったや……」
呆然と立ち尽くしているネコが、深刻そうに呟く。
「貴方……気付いていないの?」
「え……?」
「夕魅ちゃんの歌、言葉に出来ない程に凄かったわよ」
――拍手も起こらなかったのに……どうして?――混乱して頭が追いつかない。
「でも、誘われたり声を掛けられることもなかったですよ?」
「この交流会はプロの人も参観しているの。だから、実力があるとメンバーを組んでいると思われて、誘われないのよ。声を掛けられないのは、夕魅ちゃんの歌声が凄かったからだと思うわ」
――……歌声? 自分からしたら、ピンっと頭に入ってこない。今まで自分の歌声を聞いたこともなかった。そんなに人との違いがあるのかなぁ。
「もう一つ良いですか? 歌い終えて拍手がされなかったのって……」
「それは余りの衝撃で思考が追いつかなかったのよ。それ程、引き込まれる歌声だったわ。ステージを去って、ようやく気が付いて拍手をしたのよ」
その話しを聞いて少し理解が出来た気がする。
まだ、自分がそれ程の歌声を奏でていた実感はないが、同じ現象は何度か経験をした。1度目は、初めて生演奏を見たとき……衝撃で追いつかなかった。2度目は湊の時。2度と忘れることは出来ない程の衝撃を受けて、お辞儀をするまで終わっていることに気が付かなかった。
頭の中で整理をしている時。ネコは考え込みながら提案をする。
「もし夕魅ちゃんが良かったら、紹介したい演奏家がいるんだ。メンバーを組みたいって相談してきたお客さん何だけど、私より夕魅ちゃんの歌声を分析して、言語化出来ると思う。どうかなぁ? 会ってみない」
恐れ多いと思ってしまうけど、自分の歌声でモヤモヤするのも嫌で……気になる。深く考えて提案を受け入れることにした。
そんな時、遠くから見ているネコが、深呼吸の身振りをしていた。その姿に合わせて呼吸をすると落ち着きを取り戻す。
だけど、状況が大きく変わった訳じゃない――しっかりしろ……私。自分が挑戦したくてこの場を用意して貰ったんだ。自分なりに練習を今日まで積み重ねてきた。私もスミレみたいに背中を押せる人になりたいって。
私はマイクを持つと、しっかり前を向いて話す。
「こんにちは。今……凄く、緊張しています。皆さんのように、上手に出来ないかも知れませんが、頑張るので聞いてください」
震える声を必死に抑えて伝えると、思いもしない反応が返ってくる。
「頑張れー!!」
「リラックスリラックス」
数人だけではなく、周りの人が声を出して応援をしてくれた。暖かさに背中を押されて始める。
「Your Tears Will Bloom into a Flower So Divine(あなたの涙は花のように美しく育っていく)」
タイトルを告げると、何度も耳にした音楽が流れてきた。
不思議とこの音楽を聴くと、1人じゃない気がする。隣には何度も背中を押してくれたスミレが側に居る気がした。
私はまるで、取憑かれるように歌い始める。
周囲の音は段々と聞こえなくなり、最後は自分の歌声すら消えた。深く、深く沈んでいく。観客は歌い始めるまで優しい表情で見守っていたが、歌い始めると表情は一変し、真剣に見つめていた。
なぜかそんな姿を見ても、緊張をすることなく歌い終えた。胸がようやく安堵すると、お辞儀をしてからステージを降りる。歌い終えると、拍手は1人も起きなかった。でも、歌ったことに意味がある。私は胸を張ってネコの元へ向かった。
ネコの近くに近づいた頃、まばらに拍手が響く。ステージに立っていないのに、視線を向けられていた。ネコの元へ着くと抑えていた言葉が漏れ出す。
「えへへ……失敗しちゃった。拍手も起きなかったや……」
呆然と立ち尽くしているネコが、深刻そうに呟く。
「貴方……気付いていないの?」
「え……?」
「夕魅ちゃんの歌、言葉に出来ない程に凄かったわよ」
――拍手も起こらなかったのに……どうして?――混乱して頭が追いつかない。
「でも、誘われたり声を掛けられることもなかったですよ?」
「この交流会はプロの人も参観しているの。だから、実力があるとメンバーを組んでいると思われて、誘われないのよ。声を掛けられないのは、夕魅ちゃんの歌声が凄かったからだと思うわ」
――……歌声? 自分からしたら、ピンっと頭に入ってこない。今まで自分の歌声を聞いたこともなかった。そんなに人との違いがあるのかなぁ。
「もう一つ良いですか? 歌い終えて拍手がされなかったのって……」
「それは余りの衝撃で思考が追いつかなかったのよ。それ程、引き込まれる歌声だったわ。ステージを去って、ようやく気が付いて拍手をしたのよ」
その話しを聞いて少し理解が出来た気がする。
まだ、自分がそれ程の歌声を奏でていた実感はないが、同じ現象は何度か経験をした。1度目は、初めて生演奏を見たとき……衝撃で追いつかなかった。2度目は湊の時。2度と忘れることは出来ない程の衝撃を受けて、お辞儀をするまで終わっていることに気が付かなかった。
頭の中で整理をしている時。ネコは考え込みながら提案をする。
「もし夕魅ちゃんが良かったら、紹介したい演奏家がいるんだ。メンバーを組みたいって相談してきたお客さん何だけど、私より夕魅ちゃんの歌声を分析して、言語化出来ると思う。どうかなぁ? 会ってみない」
恐れ多いと思ってしまうけど、自分の歌声でモヤモヤするのも嫌で……気になる。深く考えて提案を受け入れることにした。