落下点《短編》
外の空気は夕方よりもずうっと冷えていた。ツンとした温度に瞳が潤む。
星の光が、とても澄んで見えた。
寒いときの方が、星が綺麗に見えるんだって。誰かから聞きかじったそんなセリフが頭の中に浮かんだ。
「…お、見て!息白いんやけど!!」
朋也くんが無邪気に笑って、ハァって息を吐き出す。暗闇の中に生まれる、まあるい白の塊。
「ほんまや!!どうりで寒い思たぁ」
「なぁ!トモちゃんの息も白いわ」
「ウチの方が白いなっ!」
「ははっ、なんの競争やねん!!」
お酒のせいで火照った頬には、この外の冷たい空気は痛いくらいだった。
体の中はまだ熱いのに、皮膚は慣らされてもうすっかり冷たい。
仲良し六人組で集まるのは久しぶりだったけれど、別に一人一人とは久々というわけではなかった。
女の子たちとは同じ学部だからかぶる授業は多いし、忠司くんとも、お決まりの食堂やら、広場やら、そういったところで見かけて少し話すことはあって。
もちろん陣ちゃんには毎日会っていた。けれど、朋也くんだけ会うことはあまりなかったのだ。
陣ちゃんに一度だけ、朋也くんは最近元気かと尋ねたことがあった。
『アイツ、なんかの資格取るとかゆうて頑張っとるみたいで忙しいらしいわ』
陣ちゃんは寝っ転がったまま、あたしに背を向けてそう言った。
「朋也くん、なんか頑張ってるらしいね。資格取るって」
「…ああ!陣から聞いた?」
「うん。何の資格なん?」
「男前検定二級」
「…ふーん」
「いや、そこツッコもうよ!!」
朋也くんが笑う。笑って、またその口から白い息が立ち上って、そして。
その白さが空に昇って消えたとき、次に現れた朋也くんは、もう笑ってはいなかった。
「…なんか、こうやってゆっくり話すん。久しぶりやね」
急に朋也くんが真顔になるから、なんだか具合が悪くなって、下を向く。新調したばかりのスニーカーと目が合った。
隙間を埋めようとして、口が勝手に動く。
「…うん!そうやなぁ、みんな授業忙しなってったし、学部違うとそんな会わへんし…あ!忠司くんにもいつの間にやら彼女できとるし!もうびっくり──」
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