落下点《短編》



外の空気は夕方よりもずうっと冷えていた。ツンとした温度に瞳が潤む。


星の光が、とても澄んで見えた。

寒いときの方が、星が綺麗に見えるんだって。誰かから聞きかじったそんなセリフが頭の中に浮かんだ。


「…お、見て!息白いんやけど!!」


朋也くんが無邪気に笑って、ハァって息を吐き出す。暗闇の中に生まれる、まあるい白の塊。


「ほんまや!!どうりで寒い思たぁ」

「なぁ!トモちゃんの息も白いわ」

「ウチの方が白いなっ!」

「ははっ、なんの競争やねん!!」


お酒のせいで火照った頬には、この外の冷たい空気は痛いくらいだった。
体の中はまだ熱いのに、皮膚は慣らされてもうすっかり冷たい。


仲良し六人組で集まるのは久しぶりだったけれど、別に一人一人とは久々というわけではなかった。

女の子たちとは同じ学部だからかぶる授業は多いし、忠司くんとも、お決まりの食堂やら、広場やら、そういったところで見かけて少し話すことはあって。

もちろん陣ちゃんには毎日会っていた。けれど、朋也くんだけ会うことはあまりなかったのだ。

陣ちゃんに一度だけ、朋也くんは最近元気かと尋ねたことがあった。

『アイツ、なんかの資格取るとかゆうて頑張っとるみたいで忙しいらしいわ』

陣ちゃんは寝っ転がったまま、あたしに背を向けてそう言った。



「朋也くん、なんか頑張ってるらしいね。資格取るって」

「…ああ!陣から聞いた?」

「うん。何の資格なん?」

「男前検定二級」

「…ふーん」

「いや、そこツッコもうよ!!」


朋也くんが笑う。笑って、またその口から白い息が立ち上って、そして。


その白さが空に昇って消えたとき、次に現れた朋也くんは、もう笑ってはいなかった。


「…なんか、こうやってゆっくり話すん。久しぶりやね」


急に朋也くんが真顔になるから、なんだか具合が悪くなって、下を向く。新調したばかりのスニーカーと目が合った。

隙間を埋めようとして、口が勝手に動く。


「…うん!そうやなぁ、みんな授業忙しなってったし、学部違うとそんな会わへんし…あ!忠司くんにもいつの間にやら彼女できとるし!もうびっくり──」


.
< 15 / 59 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop