落下点《短編》
…朋也くんとは、あれからちょくちょく連絡を取るようになっていた。それだけじゃない。たまにこっそりと、家を抜け出すようにして会っていた。

罪悪感がなかったかと言えば、ないはずがない。朋也くんだってそうだ。


「…やっぱりこういうの、だめだと思う」


何回か会ってしまったあと、一度あたしはそう切り出した。

こんなのは朋也くんにも悪い、陣ちゃんと別れる気はない、そう言った。

朋也くんも、陣ちゃんに会うのが辛いんだとうなだれた。けれど。


「…でも、トモちゃんに会えんくなるんはもっとつらいねん。…それでええから…二番目でも、三番目でも。」


──どうしたらええかわからへんくらい、めっちゃ好きなんや。

そう言われたら、拒むことなんてできなかった。だってあたし自身、悪いと思いながらも朋也くんに惹かれているのは事実で。

ここまで自分を求められたのは初めてだった。陣ちゃんとの付き合いにはないものが、朋也くんにはあったから。



『大学生ってかんじやね、朋美』


高校の頃の友達と久しぶりに電話したとき、あたしの相談に彼女は楽しそうにそう言った。


『遊べるんなんか大学のうちやって!今のうちに遊んどかな将来後悔すんで?』


そういうもんなんかなぁ。あっけらかんとした彼女の言いぐさに、ずいぶん気持ちが軽くなった。


もちろんだからと言って、罪悪感がなくなることはなかった。それでも繰り返すうちに、少しずつそれは薄れていった。


…まるでどんどん水を足された、絵の具みたいに。



「朋美」


いつの間にかドラマはエンディングを迎えていて、次回予告になっていた。次回はどうやら見逃せない展開らしいよ、陣ちゃん。

熱すぎるこたつの温度のせいか、のぼせたみたいにぼうっとしてしまっていたら、陣ちゃんはもう一度「朋美」ってあたしを呼んだ。


「ん?」

「…一緒に住もか」



いきなりすぎて、びっくりした。それは寝言みたいにふんわりしてて、おはようって言うのとおんなじみたいに、あまりに普通に発せられたから。


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