落下点《短編》
──大学生活って、もっと長いものやと思っとった。
久しぶりに2人で、大学近くのカフェでお茶していたときに、サチがポツリとそう言った。
店内はすいていることもなく、かといって混雑もしていなかった。
お互いに忙しく、最近では顔を合わせるのも珍しくなっていたあたしたち。でも注文したのはこの前来たときと同じ、サチはメープルクリームラテ、あたしはショコララテだった。
「なんかあっという間やんね!やだな〜…気がついたら就職とかなってそう」
サチのぽってりとした唇がカップに口づける。
「早いよなぁ。入学したての時が懐かしいもん!!」
「あたしさぁ、入学前は、大学ってなんかすごいとこって思っとってさ。」
サチはそこまで言うとため息をつき、「交換!」とあたしのショコラと自分のメープルをすり替えた。
蜂蜜の甘ったるい匂いが濃くなる。欲張った香りだなぁと思う。例えば、晴れ晴れした太陽の光と、雨の後の虹と、細やかな粉雪とがいっぺんに現れたみたいに。
「すごいとこ?」
「うん!女子大生なったら彼氏なんかすぐにできるもんや〜とか!!」
サチらしいなぁ、そう思ってふふっと笑うと、気に障ったのかサチの眉間にシワが寄った。コーヒーカップに口をつける。少し、温くなっている。
「…そんでな、その彼氏と、大学からずーっと続いて、結婚するんが、夢やったねん。」
隣に座っていたカップルが、食事を終えて席を立った。
──一緒に住もか。
陣ちゃんの言葉が、ふいに頭に浮かんだ。
一年と少し。"陣ちゃん"と呼ぶようになってから、時間を一緒に過ごすようになってから、まだ一年と、少しだけ。
長いようで、短いような気もした。
「ずーっと続いて」って、どれくらいなんだろう。ずーっと続いたら、どうなっていくんだろう。きっと、もっと深くて。もっと穏やかで…もっと。
「朋美はおるもんね」
カタンとカップを置き直す音に、はっと我に返った。悪戯っぽい瞳で、あたしを見つめるサチ。
「絶対結婚すると思うなぁ〜、陣ちゃんと朋美!」
.