**confection**
「じゃあ…行ってきます…」
少し強張った面持ちで、語尾になるにつれて小さくなるももの声に、胸が嫌な音を立てる。
何度か飛び出しそうになった言葉が、すぐそこまで出掛けて再び飲み込む。
だから、引き止める権利なんてねえっての。
「行ってらっしゃーい!!もも!!頑張って!!」
「…ま、頑張って」
「美春も俊ちゃんも…頑張ってって…」
「抜け駆けは許さねえぞお〜!!!!」
この際龍雅は置いておく事にして、美春と俊の言葉にさえも複雑な気持ちだった。
これからの何十分かを頑張れと、俺に向けて言われたような気分ちだ。
「次の授業には間に合うようにな」
「すぐ帰ってくるよ!!じゃあ…行ってきますっ」
行かせたいなんて、少しも思う訳ない。
もどかしい気持ちに苛まれながらも、少し表情の硬いももを見送った。
すぐ…?本当にすぐ帰ってくんのかよ。
大丈夫なのかよ。
扉の向こうに消えたももの後ろ姿の残像が、ただただ虚しい。
いつまでもそこを見つめていた俺の前に、龍雅の含み笑いを浮かべた顔が遮るようにして現れた。
「松風くーん。行かせて良かったんですか〜?」
「……さあね」
龍雅の言葉から逃げるように、顔を横に背ける。
ハッキリしない自分の態度に、俺自身情けなくなる。
そんな気持ちさえも、きっと周りにはバレてんだろうな。
何も考えたくなくて、頬杖をついたまま三階からの景色をただ眺めた。
きっと屋上では、遮る物のない景色が、目下に広がっているに違いない。