**confection**
ドキドキした。
走っていても分かる程に、俺の心臓がバクバクと鼓動する。
むしゃくしゃする気持ちを振り切るように、俺は周りをみんなに囲まれるようにして走った。
やたら美春がキャッキャと騒いでいたが、美春だけじゃなくみんなが笑顔だ。
こーゆうのって、なんか…青春?とか言うのか?
間違いなく俺で楽しんでるんだろうけど。
でも、背中を押された気がした。
屋上までの階段を登れば、そこにはどんな景色が広がっているのだろうか。
何度か足を運んだ事はあったが、今日見る景色はきっと初めて見る景色なんだろう。
開け放たれた扉が目に入ると共に、眩しい光に一瞬視界が白くなる。
暖かい風が頬を掠めると、噴き出してきた汗のせいかひんやりとする。
穏やかに昼時を過ごす生徒がちらほらと居る中、柵に沿うようにして向き合う男女が居て、そこだけが違って見えた。
息がせわしなく切れる中、ぐっと生唾を飲み込む。
……もも。
飛び出してもっと近くに行きたいたい衝動に駆られたが、その場に踏みとどまる。
扉から出てしまえば、見に来てしまった事がももにバレてしまう。
この際バレて、今すぐその場をぶち壊してしまいたいんだけど。
「…誰か分かる?」
「ん〜…あれって3年じゃね?」
俊の言葉に、龍雅がポツリと呟く。
ここから見えるものは、ももの背中。
そして、正面からももを見下ろす、背の高い男子生徒。
その顔は、とても穏やかな顔で、一言で言えば好青年だった。