『naturally』
自分の生い立ちを語るその表情は、一ヶ月前までと同じ渇いた無表情に戻っていた。
目の前のシェナの変化に、王妃はそっと膝の上に置かれた手に自分の手を重ねた。
「母からも姉たちからもいつも見えない壁を感じていました……。三人のわたしへの関心は低くて、初めてわたしの存在価値を見出したのが……皮肉にも亡くなった弟の代わりになった時でした……」
こんなことを誰かに話したことなんてなかった。
お世辞にも家族の愛情に恵まれているといえない環境。
それを認めることが怖かった。
認めてしまうと、家族の愛情を知らない自分が家族なんて作れるわけないって、自分自身を否定する感情で埋め尽くされそうになってしまうから……。
「こんなわたしが……家族を持ってもいいんでしょうかっ?」
気がつけばシェナの瞳からは幾粒もの涙が零れ落ちて、重ねられた王妃の手を次々に濡らしていた。
「もちろんよっ。あなたには沢山の家族が居るわ。あなたのお父様。私や王にナッシュもセルシュ。そして、あなたを誰よりも愛してるリューシュがいるでしょ? みんなあなたを大切に想ってる。あなたもみんなを大切に想う気持ちがある。それだけで十分よ」