感方恋薬-かんぽうこいやく-
爺はあたしのガンにビビったのか、妙にあたしの機嫌を取るのに必死な様に感じた。良いんだ別に、これはあたしの生き方だ。誰にもこれは譲れない。そう、たとえそれが爺で有ろうとも。


         ★


朝が来た―――決戦の朝が。


あたしはベッドから這い出し鞄の中に薬瓶が入っている事を、念の為確認して制服に着替えると一階の洗面所に向かった。


其処では弟が相変わらず機嫌良さそうに歯を磨いて居た。あたしは鏡の前から弟を押し退けると歯ブラシに歯磨き粉を付けてがしゅがしゅと歯を磨き始めた。


「どうひはの、はねひ…」


「はひ?はひがひひはい?」


歯を磨いている者同士、会話は成立しない。業を煮やした弟が歯磨き途中で口を濯ぐと改
めてあたしに尋ねた。
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