感方恋薬-かんぽうこいやく-
あたしは心をちくちくと、まち針で刺されて居る様な錯覚に陥りながら、図画工作が苦手な小学生が描いた御母さんの似顔絵みたいな笑顔を張り付けて則子に向ってちらりと肩越しに顔を見せた。


やっぱり話しておいた方が良いかな…


…と、則子に全てを押し付けようとしているあたしの心に刺さる物がまち針から五寸釘に変わって行く様な感覚に襲われた。


でも、でも頼んで来たのは則子、あんただからね。


そうやって、あたしは自分を無理矢理納得させた。


「ところで、貴子…」


則子の問い掛けに、あたしのガラス細工の心臓は胸から転げ落ちて粉々に砕けそうに成った。
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