平安物語=短編集=【完】
時明が屋敷に向かうのをぼんやり見ていると、不意に御簾の下から扇が差し出されたようだ。
時明は早足でそこに歩み寄って、少し話して戻った。
「宮様、やりました!
ここです!!」
「え?」
「ここが、紅葉の君のお屋敷です!
あの夜手引きをした女房の右近がおりまして、声をかけて参りました。
右近と姫君の他は誰もあの夜の事を知らないとのことです。
いかがなさいますか?」
びりりと電流が走るような感じがした。
今すぐにでも逢いたいと思ったが、他の誰にも隠していた事が露見するのも姫君が恥ずかしいだろう。
「とりあえず、そなたと右近は連絡を取れるのだな?」
「はい。」
「では……とりあえず、今日は帰ろう。」