准教授 高野先生のこと

高野先生の誕生日は11月16日。


「お誕生日、もうすぐじゃないですか!?」

先生の誕生日がまだ過ぎていなかった幸運に、私は心躍る思いだった。


「透谷(とうこく)と同じなんです」

先生は静かにそう言って、ゆっくりと一口お茶を飲んだ。

北村透谷……明治の詩人であり評論家の顔も持つ人物である。

先生も私も近代詩は専門ではないけれど。

当然ながら教養としては知っている。


「同じ誕生日でも僕は彼のような繊細さを持ち合わせてはいませんが」

そんなことはないと思う。

こうやって見ると高野先生は青年の頃の透谷に似た面差しをしているかも。

資料の中で見た22歳頃の透谷、ちょうど今の私と同じくらいの。

ストイックで神経質そうな、線の細い印象の人物だった。

透谷は文学の理想と現実に思い悩んだ末、25歳という若さで自死を選んだ。


「僕はたとえ大学の理想と現実に悩んだとしても自殺はしません」

先生はまるで私を安心させるみたいに清々しい笑顔を見せてくれた。

まるでよく晴れた秋の日の穏やかな日差しのような優しい表情。

あぁ、先生の笑顔はどうしてこんなに優しいのだろう……。




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