准教授 高野先生のこと
先生がクラシックがジャズしか聞かないなんて、完全な私の思い込みだった。
「行きはラジオで、帰りはピアノですね」
先生は車で通勤している。
そして、いつも私が乗せてもらうのは“帰り”だけ……。
「疲れているときは静かな音楽が聞きたいみたいです。ピアノ曲はいいですね」
「ラヴェルとか?ドビュッシーとか?」
「そうですね」
フランスの作曲家が好みなのかな?なんて。
実はずっと秘かに思っていた。
「フォーレとかも好きですか?」
「うん。けっこう好き、かな」
“うん”!?
“好きかな”!?
普段の先生の口調ならここは――
“そうですね。結構好きなほうですね”
みたいになるところなのに……!!
いつもの先生の穏やかで丁寧な話し方も大好きだけど。
でも――
やっぱりこういうのって、急に距離が近くなったみたいで嬉しかった。
それにしても――
今かかっている曲。
ぱやーんほわーんな女性ボーカルなんだけど。
これは???
「先生、これ歌っている人って……?」
「斉藤由貴ちゃんです」
「えっ、歌も歌うんですね!?」
先生と私、こういうギャップの感じ方は初めてかも。